we honor those we lost − オバマ大統領の真珠湾スピーチより

photo credit: sergecos Mer matinale. Explore. via photopin (license)

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昨日より新潟の実家に帰省しています。

朝起きて、新潟日報の朝刊をぱらぱらとめくっていたら、安倍首相とオバマ大統領の真珠湾スピーチの全文が掲載されていました。それぞれの英訳と和訳も付いています。

安倍首相とオバマ大統領の演説全文|新聞関連記事|新潟日報モア

政治的な云々をここで語ることはしませんが、とても詩的で力強いスピーチだというのが率直な第一印象。

また翻訳の仕方に注目しながら読んでいたところ、目に付いたのがオバマ大統領のスピーチの締めくくり部分。

Here in this quiet harbor, we honor those we lost, and we give thanks for all that our two nations have won − together, as friends.

(この静かな湾でわれわれは友人として共に、亡くなった人々を悼み、両国が勝ち取ってきたもの全てに感謝をささげる。)

原文で ‘we honor those we lost’ となっている部分が和訳では「亡くなった人々を悼み」となっています。

honor の原義は「敬意を表する」ですので、日本語の「悼む」とはかなりニュアンスが異なります。

*日本語の「悼む」に近い単語には、mourn という動詞があります。

本来なら同じ意味を伝えるべき対訳において、なぜこのようなズレが生まれてくるのでしょう?

もしかしたら、ここに両国の政治的な思惑のようなものを読み取ることも可能なのかもしれません。

ただそれ以上に感じるのは、それぞれの言語において「こういう場面ではこういう表現をする」という規範の問題です。

実際オバマ大統領のスピーチを初めから読んでいくと、さきほどの文にしっくり来るのはやはり mourn より honor だろうと感じます。

一方、和訳を初めから読んでいくと、さきほどの文にしっくり来るのはやはり「敬意を表する」より「悼む」だろうと感じます。

結局どのような単語も、その単語が使われている文脈や文化から離れて存在できる訳ではありません。そこには逐語訳というものの限界があります。

そのような差異に向き合う翻訳というのは、それだけに難しく、創造的な仕事なのでしょう。