「癒す」と「癒やす」はどちらが正しい?

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パソコンで文章を作成していて、漢字変換をしたときに、送り仮名の候補が複数あって選択に迷うことがあります。

例えば「いやす」という動詞。

今、この文章を打っている Mac では「癒す」と「癒やす」という二つの候補が表示されます。

みなさんはどちらの表記がしっくりくるでしょうか?

念のため、辞書を調べてみると次のように出ています。

いやす[癒やす](他五)

  1. 〔文〕病気をなおす。苦痛をなくす。→:癒える。
  2. 気持ちをやわらげる。くつろがせる。〔多く、受け身で使う。「癒やされる音楽」〕

「三省堂国語辞典 第七版」

いやす【癒(や)す】(他五)

  1. 病気をなおす。「湯治場で傷をー」
  2. 苦痛などをなおす。「いやされる」

「新明解国語辞典 第七版」

三国は「癒やす」の一択。一方、新明解は「癒(や)す」となっているので「癒す」の表記も許容しています。

ネットで調べてみると、この問題について詳しく説明した次の記事を見つけました。

癒す?癒やす? ― 常用漢字改定と送り仮名 – ことばマガジン:朝日新聞デジタル

この記事には、慣例として過去には「癒す」が用いられてきたこと、しかし送り仮名のルールに従えば「癒やす」が正しいことが紹介されています。

この送り仮名のルールというのは、昭和48年6月に出された内閣告示「送り仮名の付け方」のこと。

通則1  本則 活用のある語(通則2を適用する語を除く。)は、活用語尾を送る。

通則2  活用語尾以外の部分に他の語を含む語は、含まれている語の送り仮名の付け方によって送る。

これだけだと少々わかりにくいので、次の例で考えてみましょう。

動く 動かす
癒える 癒やす

 

通則1の「活用のある語は、活用語尾を送る」という原則に従えば、「動かす」という動詞は本来「動す」と表記するはず。

しかし同じ「動」を使った「動く」という動詞もあるので、通則2の「活用語尾以外の部分に他の語を含む語は…」が適用され、「動く・動かす」のように送り仮名を揃えます。

「いやす」もこのルールに当てはめれば、「癒やす」と表記するのが正しいということになります。

引用記事の説明はここまでなのですが、一つ思ったのは「癒える」という表現が現代ではあまり使われなくなってきているのではないか?ということ。

もし仮に「癒える」という動詞が消失してしまえば、さきほどのルールでは「癒やす」よりも「癒す」の方が正しいということになります。

もちろん「癒える」は(特に書き言葉では)まだまだ現役の言葉ですし、さすがに数年以内に消えてしまうようなことはないでしょう。

ただ「癒す・癒やす」の表記のゆらぎの問題には、このあたりの事情も微妙に絡んでいるような気がします。

 
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