ワーキングメモリと語学習得能力の関係について − from ScienceDaily

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外国語を学ぶための特別な才能というのは、果たして存在するのでしょうか?

心情的には存在しないと答えたいところですが、世の中には語学の天才としか言いようのない人もいます。

ロンブ・カトーさんの名著『わたしの外国語学習法』によると、イタリア・ボローニャのメゾファンチ枢機卿という人は70か国語(!)を話すことができたそうです。

もしも外国語の習得に生得的な能力が関係あるのだとしたら、それはいったいどのような能力なのでしょうか?

 

ワーキングメモリと言語習得能力

さまざまな科学分野の研究成果を紹介するウェブサイト ScienceDaily によると、Norwegian University of Science and Technology が、ヒトの言語習得能力とワーキングメモリには相関関係があるという研究結果を発表したそうです。

A good working memory is perhaps the brain’s most important system when it comes to learning a new language.

優れたワーキングメモリは、新しい言語を学ぶ際、おそらく脳の最も重要なシステムとなる。

ワーキングメモリというのは、私たちが何らかの知的作業をするとき、一時的に記憶を留めておくための容量のことです。

例えば、以下の数字を暗記してくださいと言われたとします。

1469735

おそらくほとんどの人は、少し時間をかければ、この数字を暗唱できるようになるでしょう。

しかし一か月後にこの数字を思い出してくださいと言われても、おそらく思い出すことはできないと思います。

このように一時的に記憶を保管するための領域をワーキングメモリと言います。

 

Nature or Nurture?

本稿によると、ワーキングメモリの容量は遺伝子によって決定するのだそうです。ということは、外国語学習の適性とは生まれつきのものなのでしょうか?

Whether you struggle to learn a new language, or find it relatively easy to learn, may be largely determined by “nature.”

新しい言語をもがき苦しんで習得するか、たやすく習得するかは、主として nature(生得的な能力)によって決まる。

Nature(生得的な能力)か Nurture(環境要因)かというのは、言語習得のプロセスに関する最も本質的な議論です。

ただしそれはあくまで第一言語(母語)の話であって、第二言語においてはどちらかと言うと環境要因の方が重視されてきました。

しかし生得的な能力であるワーキングメモリが、第一言語のみならず、第二言語の習得とも相関関係があるのだとすれば、私たちの外国語学習へのモチベーションにも少なからず影響を与えそうです。

 

ワーキングメモリと言語運用能力

ワーキングメモリというのは、人間の記憶の一形態です。

だとすれば、ワーキングメモリと語学習得能力に関係があるということは、すなわち、ワーキングメモリの容量が大きい人は単語などの暗記が得意であるということを言い換えているにすぎないのではないか?

という疑問も生じますが、そう単純な話でもないようです。

Not only is working memory important in learning new words, it is also important in our general language competence, in areas such as grammar skills. Working memory is connected to our ability to gather information and work with it, and to store and manipulate linguistic inputs as well as other inputs in the brain.

ワーキングメモリは新出単語を覚えるのに重要というだけではなく、文法スキルのような一般的な言語能力においても重要である。ワーキングメモリは情報を集め、活用する能力、そして脳への言語的インプットやその他のインプットを保存、処理する能力と結びついている。

こうして見ると、単に暗記力の問題という訳ではなく、ワーキングメモリはより広範な言語運用能力とも関係があるようです。

 

ワーキングメモリのトレーニング

最後に希望のある話も紹介しておきましょう。

ワーキングメモリはある程度までは生得的な能力であるものの、訓練によって鍛えることもできるのだそうです。

暗算や記憶トレーニングといったオーソドックスな方法もありますし、こちらの記事では、一見記憶とは関係なさそうな料理とスロージョギングをすすめています。

また人に何かを説明することもよいトレーニングになるとのこと。だとすれば、こんな風にブログを書くこともワーキングメモリを鍛えることにつながっているかもしれない、と思うのは希望的観測でしょうか?