『外国語上達法』読書ノート⑧ − 辞書

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『外国語上達法』読書ノートの第八回目です。

この連載では、岩波新書より出ている千野栄一先生の『外国語上達法』を読み、感じたこと、考えたことを一章ごとにまとめていきます。

目次はこちら。

1 はじめに
2 目的と目標
3 必要なもの
4 語彙
5 文法
6 学習書
7 教師
8 辞書(←本稿)
9 発音
10 会話
11 レアリア
12 まとめ

 

辞書 − 自分に合った学習辞典を

初めて本格的に使った英和辞書は『アンカー英和辞典』でした。おそらく高校に入った頃に、英語教師だった祖父からプレゼントしてもらったのを覚えています。

その後、一番長く使ったのは『ジーニアス英和辞典』と『Oxford Advanced Learner’s Dictionary』の2冊でしょうか。

ことばが好きな人にとって、辞書は宝の山。きっとみなさんもお気に入りの一冊があることでしょう。

書店に行けば英語の辞書は選び放題。それだけにどれにしたらよいのか迷ってしまいます。

そんな訳で、今回は辞書の選び方について考えてみましょう。

 

頻度数

著者が本書で繰り返し強調するのは、単語の使用頻度は、語彙の学習に取り組む上での大切な指針になるということ。

特に初学者の場合は、何よりもまず使用頻度の高い語彙を覚えていかなければなりません。

現在、日本で発売されているほとんどの学習英和/英英辞書には、この使用頻度への配慮がなされています。頻度の高い語は、太字や異なる色で表記されているケースが多いようです。

また一定以上の頻度数の語をまとめて見たい場合には、iPhoneアプリの辞書を利用するのが便利です。

例えば、私が使っている『ウィズダム英和・和英辞典』には、重要語の一覧が付いています。

先ほどの画面から、例えば「Aランク」をタップすると、中学必修相当語彙の約1,300語のリストを見ることができます。

もし知らない単語があれば、その単語をタップすると、すぐにその語義のページへ飛ぶことができます。

一定レベルの英語を学習し終えた段階で、この語彙リストを使って、覚えるべき単語に漏れがないかどうかのチェックを行うこともできるでしょう。

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逆引き

近年になって世界の有力な言語で揃ってできてきた辞書に、逆引き辞典がある。

普通の辞書では語のはじめの方から、a, aa, ab, aba, ……, x, y, za, zb, zx, zy, zz という風に語が並べてあるのに対し、a, aa, b, ab, bb, c, ac, bc, cc, ……, x, ax, bx, cx, y, ay, by, cy, z, az, bz, cz, xz, yz, zz, azz, zzz というように、語の終りから a, b, c 順に揃えてある辞書である。

P.131

逆引き辞書というのは、普通に語学に取り組んでいる分には、絶対に必要なものではありません。

しかし手元にあると、工夫次第でいろいろと面白い使い方をすることができます。

この逆引きに関しては、本書『外国語上達法』の初版が発売された1985年時点では想像もできなかった進歩が起こっています。

それが前述の iPhoneアプリなどを利用した後方一致検索機能です。

先ほども紹介した『ウィズダム英和・和英辞典』には、後方一致検索機能というものが付いており、例えば[-ism]で終わる単語にはどのようなものがあるか知りたければ、簡単に一覧を参照することができます。

なお本書によると、逆引き辞典というのは、もともと詩の韻を探すために作られたのだとか。だとすると現代の詩人は、昔の詩人に比べて、大変恵まれた環境にいるのかもしれませんね。

 

よい辞書の条件

また本章では、よい辞書の条件として以下の項目が挙げられています。

一、探している語が出ている辞書

二、その語に、自分の読んでいるテキストに合う訳の出ている辞書

三、訳の他にも、必要とする文法的事項が出ている辞書

四、熟語と一般にいわれている、語以上のレベルで現われる用法がよく出ている辞書

五、よい用例のあがっている辞書

六、読み易く、興味を持たせるように作られている辞書

七、引き易い辞書

八、持ち運びに便利な辞書

九、値段の安い辞書

P.133〜134

この中のいくつかの項目はそれぞれに矛盾する点もあります。例えば「探している語が出ている」ということと「持ち運びに便利」ということは、おそらく相反する要素でしょう。探している語がなるべく出ているようにするためには、収録語数を増やさなければならないからです。

要は学習の段階ごとに適切な辞書を選ぶべきであり、初心者は初心者向けの辞書を、上級者は上級者向けの辞書を使うべきなのだと思います。

ただしこれはあくまで英語やメジャーな言語の学習者に言える話であって、それ以外のマイナーな言語の学習者にとっては、辞書を選ぶという贅沢はほとんど許されていないということも付け足しておかなければなりません。

世界には、その言語の辞書が存在するというだけで、涙を流して感激しなければならないような言語の方が圧倒的に多いというのが現実です。

 

私が好きな辞書

最後に私が好きな辞書を2点挙げておきたいと思います。
 

1)熟語本位英和中辞典

初版が1933年という大変に歴史のある英和辞書です。

この辞書の最大の特徴は、豊富な用例とその訳文の素晴らしさにあります。英語が好きな方なら、ぜひ手元に一冊置いておきたい辞書と言えます。

この辞書については、以前のエントリーでも紹介しました。

[参考]英和辞書を読んでみる − withの場合 | Fragments

Amazon.co.jp を見ると、残念ながら現在は中古品のみの扱いとなっているようです。

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2)探検する英和辞典

翻訳者の飛田茂雄さんが、翻訳の過程で見つけた既存の辞書にはのっていない単語や表現をまとめた一冊。

また私たちがよく知っている単語が、思わぬ意味で使われているといった例も豊富に紹介されています。

実際の用例とともに筆者による解説がのっており、それぞれの項目をコラムのように楽しんで読むことができる一冊になっています。

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本章のまとめ

よい辞書の条件は、

  • 頻度数に配慮があること
  • 自分のレベルに合っていること

そして英語やフランス語に取り組んでいる人は、何よりも辞書を選ぶことができるという幸運を噛み締めましょう!

 

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