二十進法とゲティスバーグ演説と聖書のはなし
海外に行くと、2の単位のお金がよく使われていることに気付きます。
オーストラリアのATMで100ドルを下ろせば、出てくるのは20ドルが5枚。50ドル札や100ドル札も存在するものの、普段はあまり見かけることがありません。
実際、高額な買い物でない限り、20ドル札の使い勝手はなかなかよいと思います。
それでは日本でも2,000円札を作ろう!ということになり、その結果がどうなったかはご存知の通り。
今回はそんな20にまつわる言葉の話を紹介してみたいと思います。
二十進法の数詞
日本語を含む多くの言語は十進法を採用していますが、この広い世界には二十進法の数詞を含む言語も存在します。
有名なのは、おそらくフランス語でしょう。
フランス語の数詞は60までは十進法ですすみますが、70は「60+10」となり、80は「4×20」となります。十進法と二十進法が混在した非常に不思議な数詞体系です。
10 | dix | 10 |
---|---|---|
20 | vingt | 20 |
30 | trente | 30 |
40 | quarante | 40 |
50 | cinquante | 50 |
60 | soixante | 60 |
70 | soixante-dix | 60+10 |
80 | quatre-vingts | 4×20 |
90 | quatre-vingts-dix | 4×20+10 |
100 | cent | 100 |
リンカーンのゲティスバーグ演説と旧約聖書の関係とは?
このような二十進法の数詞は、実は英語にも残っています。
アメリカの歴史上最も有名な演説の一つ、リンカーンのゲティスバーグ演説は、次のような一文で始まります。
Four score and seven years ago our fathers brought forth on this continent a new nation, conceived in Liberty, and dedicated to the proposition that all men are equal.
(80と7年前、われらの父祖はこの大陸に新しい国をもたらしました。自由のうちに構想され、すべての人は平等につくられているという原則にささげられた国であります。)
日本語訳は『物語 英語の歴史』より
score というのは、20を意味するやや古風な英単語です。
score
[初14c;古ノルド語 skor(刻み目、20).「20」は羊飼いが20頭ごとに棒に刻み目をつけたことから]
(やや古)20、20の1組<数の後では単複同形>
『ジーニアス英和大辞典』
多くの辞書にはこの他、threescore(60)、fourscore(80)という複合語ものっています。しかしなぜか twoscore や fivescore はのっていません。
調べたところ、threescore、fourscore というのは、旧約聖書の詩篇(第90篇)の次のような一節に由来しているようです。
The days of our years are threescore years and ten; and if by reason of strength they be fourscore years, yet is their strength labour and sorrow; for it is soon cut off, and we fly away.
(われらのよわいは七十年にすぎません。あるいは健やかであっても八十年でしょう。しかしその一生はただ、ほねおりと悩みであって、その過ぎゆくことは速く、われらは飛び去るのです。)
日本語訳は『口語訳聖書』より
リンカーンのゲティスバーグ演説も、おそらく聖書のこの部分を意識したものなのでしょう。
Eighty seven years の代わりに Four score and seven years と言うことで、20年という世代の単位を4つ積み上げたような重々しさを感じるような気がします。
また人の一生は score 4つ分というのも、考えてみると何だか胸にしみる表現ですね。