Cogito, ergo sum − 我思う、ゆえに我あり
ラテン語の響きに魅力を感じるこの頃。
時折入門書をめくったり、ラテン語にまつわるエッセイを読んだりしています。
原文のまま引用されるラテン語の名句や格言は数多くありますが、その中でも有名なものの一つはデカルトの Cogito, ergo sum(我思う、ゆえに我あり)でしょうか。
わずか三語のこのフレーズ。いったいどういう構造になっているのか、素人なりに調べてみました。
Cogito
cogito は think の意味。
厳密には、この cogito という形によって「一人称、単数、現在、直接法、能動態」を表します。
ラテン語はとんでもなく豊富な語形変化を持つ言語。
動詞の場合、その語形は、人称(一人称、二人称、三人称)、数(単数、複数)、時制(現在、未完了過去、未来、完了、過去完了、未来完了)、法(直説法、接続法、命令法)、態(能動態、受動態)といった複数の要素の組み合わせによって定まります。
これらの概念自体は英語にもあるので、その意味するところは理解はできるものの、それぞれ語形が異なるというのは大変なことですね。
単純に計算しても、3(人称)×2(数)×6(時制)×3(法)×2(態)=216もの変化が生まれることになります。
実際には存在しない組み合わせもあるので、語形の総数は216より少なくなるようですが、それでも覚えるのは一苦労でしょう。
ergo
ergo は therefore の意味。
さすがにこの単語には語形変化はないようです。
なおこの単語を OELD(Oxford Advanced Learner’s Dictionary)で引いたら、こんな風に出ていました。
ergo
(from Latin, formal or humorous)therefore
humorous というのが気になります。いったいどんな風に使うのでしょうか。(芝居風?)
sum
sum は I am の意味。
いわゆる英語のbe動詞に当たりますが、こちらは一語で「主語+動詞」を表します。
主語が省略されていると考えるのか、主語が含まれていると考えるのか、いずれにしてもユニークですね。
その他の活用は次のとおり。
単数 | 複数 | |
---|---|---|
一人称 | sum | sumus |
二人称 | es | estis |
三人称 | est | sunt |
二人称・三人称の単数はフランス語と同じ綴りです。(ただしラテン語は語末の子音を発音します。)
各国語の Cogito, ergo sum
さまざまな言語の「Cogito, ergo sum」を以下にまとめてみました。
ラテン語 | Cogito, ergo sum. |
---|---|
英語 | I think, therefore I am. |
フランス語 | Je pense, donc je suis. |
フィンランド語 | Ajattelen, siis olen. |
日本語 | 我思う、ゆえに我あり。 |
主語がない「ラテン語・フィンランド語」と主語がある「英語・フランス語」の対比がおもしろいです。
ここでは日本語は、主語ありの仲間に入っています。
もし主語を省略すると「思う、ゆえにあり」となってしまうので、やはり主語を置いた方がしっくりくるでしょうか。
まとめ
以上、今回はラテン語の「Cogito, ergo sum」の内側を少しだけのぞいてみました。
わずか三語のシンプルで力強い表現。
しかし三語を分析するだけでも、それなりの文法知識を必要とすることがわかりました。
ラテン語はいつかじっくりと勉強してみたいと思っているのですが、とりあえずは将来の楽しみに残しておきたいと思います。