『キャパの十字架』沢木耕太郎著 − 文藝春秋新年特別号より

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毎年クリスマスイブに放送する沢木耕太郎さんのラジオ番組「MIDNIGHT EXPRESS 天涯へ」は、冬の楽しみのひとつ。

今年の放送では、今年一年かけて取り組んできたというロバート・キャパに関する作品やその取材の裏話などをお話しされていました。

その作品「キャパの十字架」はまだ単行本にはなっていないのですが、発売中の文藝春秋・新年特別号に掲載されているということでさっそく購入してきました。

そして一気読み。ほんとうに面白い。面白い本といっても「感動した」「勉強になった」などなど様々な読後感があると思いますが、この作品はとにかく面白かったとしか言いようがないくらい、時間を忘れてのめりこみました。

本作の主人公であるロバート・キャパは、1936年に勃発したスペイン内戦や第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦の報道写真で世界的な名声をつかんだ、ハンガリー出身の戦場カメラマンです。

日本でもキャパに関する本は多く出版されていて、私もキャパの自伝「ちょっとピンぼけ」や、リチャード・ウィーランによる伝記「キャパ その青春」「キャパ その死」を読んだことがあります。

さて本作「キャパの十字架」はキャパの写真の中でも、おそらく最も有名な「崩れ落ちる兵士」を巡って展開します。キャパの名前を知らない人でも、どこかでこの写真を見たことがある人もいるのではないでしょうか。

銃弾に撃たれて、背中から崩れ落ちる兵士。この写真はあまりにも決定的瞬間であるが故にその真贋について様々な議論がありました。すなわち本当に撃たれたところを撮影したものではなく、演技(=やらせ)ではないかと言うのです。

「キャパの十字架」ではこの写真について、世界各地での文献調査や関係者の取材、撮影に使用されたカメラの構造に関する考察などを通して、著者独自の仮説に到達します。

著者の綿密な調査と執念、仮説を導きだす推理のプロセスはまさに推理小説のようで、ぐんぐん引き込まれてしまいます。

フィクションの推理小説でも、これだけ劇的な展開はなかなかないのではないでしょうか。近々、単行本も出るのかもしれませんが、年末年始に面白い本が読みたい方にはぜひおすすめです。

沢木さんの本を読んでよく思うのは、人間にとって何かを面白がる能力というのは、この世界を生き抜いて行く上で一番大切なものかもしれないということです。実際、それ一つがあれば、金銭や名声に恵まれなくても、満足のいく一生を送れると思うのですが、どうでしょうか。

沢木さんの本にはいつもそのような「熱」があり、読み終わった後には自分も少し熱が上がったような気がするのです。

 

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