ぬるいことは悪いこと?
フィンランド語教室のテキスト『suomen mestari 2』に次のような文が出てきました。
Olen aivan kyllästynyt haaleaan kahviin.
(ぬるいコーヒーには飽き飽きなのよ。)
*kyllästyä(飽きる)、haalea(ぬるい)
(ぬるいコーヒーには飽き飽きなのよ。)
*kyllästyä(飽きる)、haalea(ぬるい)
先生曰く haalea(ぬるい)という単語は基本的にマイナスの意味で使われるとのこと。
これを聞いたときに、日本語の「ぬるい」はどうなのだろう?という疑問が頭をよぎりました。
例えば、次のような表現を考えてみましょう。
ぬるいお茶(熱さが足りない)
ぬるいビール(冷たさが足りない)
ぬるい上司(厳しさが足りない)
ぬるいビール(冷たさが足りない)
ぬるい上司(厳しさが足りない)
日本語のぬるいには何かが足りないという含意があります。よってプラスかマイナスかと言われれば、フィンランド語の haalea と同じようにマイナスの意味で使われる単語ということになるのでしょう。
それでは「私はぬるい温泉が好き!」などという場合はどうでしょう?
この場合はもちろんプラスの意味。ただしこれはあくまで文脈の支えがあるからで、単に「ぬるい温泉」と言えば、マイナスの意味に捉える人の方が多いでしょう。(熱がりの人は別かもしれません。)
それでは文脈の支えなしに「ぬるい◯◯」がプラスの意味になることはあるでしょうか?
ぬるい味噌汁やぬるいコーラのように、もともと熱いことや冷たいことが求められているものに「ぬるい」を足せば、当然ながらマイナスの意味になってしまいます。
よって、ぬるいがプラスの意味になるためには、熱過ぎて困るものや冷た過ぎて困るもの、あるいはそもそも適温という概念がないものに付ければよいということになります。
例えば、次のような表現はどうでしょう?
ぬるいお灸(熱過ぎない)
ぬるいプール(冷た過ぎない)
ぬるい石(温かくて気持ちいい?)
ぬるいプール(冷た過ぎない)
ぬるい石(温かくて気持ちいい?)
このように考えていくと、日本語のぬるいは一概にマイナスの意味で使われるとは言い切れないのかもしれません。
あるいはこの世の中に完全な善人や悪人がいないように、どんなことばにも良いところと悪いところがあるということなのでしょうか。
12月 22, 2016 @ 23:00:00
こんばんは。
いつも興味深い話をありがとうございます。
haalea は、必ずしもマイナスの意味で使われるわけではないと思います。(先生、ごめんなさい…)
例えば haalea vesi。これをマイナスの意味にとらえるというのには違和感があります。かといって別にプラスの意味にとらえるわけでもありません。
おそらく haalea が、「熱くも冷たくもない」という意味で使われるときには、日本語の「ぬるい」と同じように、状況によって、よくも悪くも受け取られるんだと思います。熱くあってほしいものが熱くない、あるいは冷たくあってほしいものが冷たくない、そんなときにはマイナスの意味でしょう。でも、言葉そのものは、「熱くも冷たくもない」ということを言っているだけで、プラスの意味もマイナスの意味もないんじゃないでしょうか。
先生がいう「マイナスの意味」が、温度のことではなく、もっと抽象的な意味合いで使う場合、というなら話は別です。(例えば haalea tunne)
その場合なら、「基本的にマイナスの意味で使われる」というのは納得できます。
もっとも、言葉の使いかたには個人差があるし、地域による違いもあるかもしれません。ですから、私の感覚がどれだけ一般的なのかは分かりません。でも、haalea の使い方については、うちのネイティブも私の意見と同じだったので、コメントさせていただきました。
12月 28, 2016 @ 01:57:26
くうっけりさん
こんにちは。貴重なご意見ありがとうございます。haalea という単語のニュアンスを語るほどの知識がないので、日本語の方に引き寄せて考えてみると、文脈の問題も大きいのだろうなと思いました。
例えば「ぬるい水」のぬるいと「ぬるいコーヒー」のぬるいは、込められた意味が微妙に違うように思います。水は熱くなくてもよいですが、コーヒーは熱くないと嫌だという人は多いはず。ですので、くうっけりさんのおっしゃるように「ぬるい」自体にはプラスもマイナスもない、でも文脈の中に置かれるとプラスやマイナスの意味が付与されることがある、ということなのかもしれませんね。