フィンランド語学習記 vol.26 − 二人称複数代名詞はなぜ敬称になるのか?
今回は人称代名詞のお話。
まずはフィンランド語の人称代名詞を見てみましょう。
minä | 私 | me | 私たち |
sinä | あなた | te | あなたたち |
hän | 彼/彼女 | he | 彼ら/彼女ら |
*フィンランド語は基本的にローマ字読みですので、meは「ミー」ではなく「メ」、te は「テ」、heは「ヒー」ではなく「ヘ」と読みます。
この中で少し面白い使い方をするのが te で、『フィンランド語文法ハンドブック』には下記の記述があります。
1人の相手に複数の te を使うと sinä を使うよりも丁寧になります。その場合には、しばしば Te と書きます。
P18
二人称複数代名詞がフォーマル(敬称)になるというのは、実はヨーロッパの言語では広く見られるしくみです。例えばフランス語と比較してみましょう。
フランス語 | フィンランド語 | |||
---|---|---|---|---|
親称 | 敬称 | 親称 | 敬称 | |
単数 | tu | vous | sinä | te/Te |
複数 | vous | te |
基本的な考え方は同じであるように見えます。それでは英語の場合はどうでしょうか。
現代英語の二人称代名詞である you は、もともと古英語では「与格(〜に)」「対格(〜を)」の複数形として使われていたようです。
主格 | 与格/対格 | |||
---|---|---|---|---|
親称 | 敬称 | 親称 | 敬称 | |
単数 | thou | you | thee | you |
複数 | ye | you |
まず与格/対格であった you が「主格(〜が)」にも使われるようになり、それから敬称の you が一般化するにつれ、現代英語ではほとんど you で表すことになったとのこと。
複数が丁寧であるという考え方は英語にも及んでいたのですね。
それにしても、なぜ複数を使うと丁寧になるのでしょうか?
日本語では同じ二人称複数でも、「皆様」と「てめえら」ではニュアンスがかなり違いますし、複数形を使うと丁寧になるという感覚はありません。
調べてみたところ、これには相手を直接名指しせず、間接的に言及することで敬意(距離感)を示すためという説があるようです。あなたひとりのことを指しているのではなく、一般的な話をしているんだけどね、という感じでしょうか?
日本語でもそのような言い回しがないか探してみたのですが、残念ながら見つけられず。
ただし日本語でも相手を名指しする代わりに「部長」や「先生」など役職で呼んだりすることがありますので、案外そのあたりと似たような感覚なのかもしれません。
2月 04, 2013 @ 15:42:59
こんにちは
今では初対面の人でもteを使わずsinäと言っても体外失礼にはなりませんが,私が渡芬した1967年頃はteを使わないとじろりと睨み返されました。この逆で子供に対してteを使うとその子が回りに自分以外の子供たちがいるのかと勘違いしてキョロキョロする場面もありました。
teの敬称の逆でmeの話を・・・。
私的ページ( http://www9.plala.or.jp/Jussih/hist/hist1-1.htm )のロシア皇帝アレクサンダーI世のフィンランド統治宣言文では「我は」にMinäではなくMeを使ってます。日本でいうと「朕は」という感覚でしょう。Meに合わせて動詞人称語尾も-mmeになっています。
2月 05, 2013 @ 20:06:05
Jussiさん、こんにちは。
子どもがキョロキョロしてしまうというのは何だか微笑ましいですね。その光景が想像できるようです。
皇帝の一人称の例も興味深いです。ロシア国民、ひいてはロシアそのものが擬人化されたのが「皇帝」であるというような感覚なのでしょうか。
フィンランドの歴史の解説は大変参考になります。フィンランド語を始めたころに、フィンランドについての本も一冊くらい読んでおこうと思って、大きな書店の歴史書等のコーナーを見てみたのですが、なかなかそういった本は見つけられませんでした。まずはJussiさんのホームページを読ませていただきます。