小笠原語の世界

先日、池袋の LIBRO で『日本語の隣人たち Ⅱ』という本をぱらぱらとめくっていたところ、非常に面白かったので、勢いで購入してしまいました。

この本ではタイトルのとおり、日本の周辺で使われているあまりメジャーではない言語を紹介しています。そのラインアップは以下のとおり。

  • 樺太アイヌ語
  • アリュートル語
  • オイラトモンゴル語
  • シベ語
  • ゾンカ語
  • リス語
  • ブヌン語
  • 小笠原語

アイヌ語以外は、名前すら聞いたことがありません。

しかし、この中の「小笠原語」というのが何だか気になります。小笠原はいつか行ってみたいと思っていた場所でもあるので、真っ先にそのページを読んでみました。

 

小笠原語の成立過程

小笠原諸島には、19世紀、日本人より先に欧米人が入植していました。その後、小笠原は日本領となり、八丈島などからの移民が増えてきます。すると在来の欧米人は日本に帰化し日本語も話すようになります。

その後、第二次世界大戦の後には、小笠原は米軍の施政下に入り、島民は英語教育を受けることになりました。

その結果、英語と日本語の混合言語を母語とする島民が現れ、その言語を小笠原語と呼ぶようになったそうです。

 

小笠原語の世界を覗いてみる

本書には、小笠原語の実際の会話例がいくつかのっています。

I refuse to learn the 丁寧 way.

me はちゃんとしないと。

混合言語というのは、こういう表現のことなのですね。ところで上記の文の me に関する解説が面白かったので抜粋してみます。

me「私」:欧米系島民に小笠原ことばの典型的な特徴を聞くと、まず出てくるのはここに見られる1人称代名詞の me です。主語でも目的格でも me です。所有格も my や mine ではなく「meの」となります。これに当たる複数形は us や we でもなく、ワレワレやワタシタチでもなく、「meら」です。

P.159

これらは単に英語と日本語を混ぜて話しているのではなく、独自の文法規範を持った固有の言語であるというのが、筆者のダニエル・ロング先生の主張です。本書ではその根拠も挙げられていますので、興味のある方はぜひご覧になってみてください。

なお小笠原語は Wikipedia にも項目があり、そこではこんな文例がのっていました。

現在では使われていないが、本土復帰直後の日本人教師と生徒との会話例を一部示す。ニュアンスは後に日本の俳優であるルー大柴が発する「ルー語」に近い。

「ユーは何のティーチャーかい?」

「東京ベイは、グアムアイランドよりも大きいかい?」

「『メス』って、メイルかい?それともフィメイルかい?」

最初に小笠原語の文例を見たときに感じた既視感・親近感は、もしかしてルー語に近いためだったのかな?と思ったり、思わなかったり。

いずれにしても、日本の辺境にこんな言葉があったとは、全然知りませんでした。まだ知らない日本のことばもたくさんあるのでしょう。

 

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