西條八十「蝶」

本日は詩を一篇。

蝶 西條八十

やがて地獄へ下るとき、
そこに待つ父母や
友人に私は何を持つて行かう。

たぶん私は懐から
蒼白め、破れた
蝶の死骸をとり出すだらう。
さうして渡しながら言ふだらう。

一生を
子供のやうに、さみしく
これを追つてゐました、と。

この詩を解釈して、夢を追いかけた人生というような前向きのメッセージを読み取る向きもあるようですが、私にはやはり人の一生の哀しさ・虚しさを伝える詩であるように思います。

もちろん正解がある訳ではないので、それぞれがそれぞれの読み取り方をすれば良いのでしょう。深い余韻のある一篇です。