『罪と罰』アキ・カウリスマキ監督

カウリスマキ Blu-ray Box に収録されているものの、何となく観るタイミングを逸してしまっていたデビュー作『罪と罰』をようやく観ました。

ドストエフスキーの『罪と罰』の舞台を現代フィンランドに置き換え、カウリスマキ流のアレンジを加えた一作。原題は「Rikos ja rangaistus」となっています。

フィン
rikos crime
rangaistus punishment

 

デビュー作ということもあって、キャラクターのセリフ回しなどはいわゆるカウリスマキ調ではなく、割合オーソドックスな感じ。

それでも物語の展開にぐいぐい引き込んでいくサスペンスドラマとしての力強さがあります。

食肉加工場で働く主人公の若者ラヒカイネンは、実業家ホンカネンの屋敷に潜入しホンカネンをピストルで殺害。その現場を偶然目撃した女性エヴァはなぜか彼の犯行を警察に話さず、彼を庇うようになります。

ラヒカイネンのその後の言動や行動からは罪の意識が微塵も感じられません。そもそも彼が犯行に及んだ理由は何だったのか?

その理由は物語の展開とともに明かされるものの、最終的に海外逃亡の機会を放棄し自首をすることになるラヒカイネンの心理にはわかりにくい部分もあります。

映画の最後、刑務所にいるラヒカイネンをエヴァが訪ねてきたときのラヒカイネンのセリフ。

俺は どうでもいい男を殺した
虫ケラを殺して
自分が虫ケラになった
虫ケラは虫ケラとして残る
だが それもいい
俺が殺したかったのは
”道理”だ
人じゃない
人殺しは誤りだった

ここで「道理」と訳されている単語は何なのだろう?と思い、ディスクを繰り返し再生してみたところおそらく periaate という単語であることがわかりました。

フィン
periaate principle 原理、原則

 

ラヒカイネンが殺したかった道理とは何だったのか?

それは何となくわかるような気もするし、わからないような気もします。

この作品はカウリスマキ26歳のときの作品。荒削りで未完成な部分も多いものの、ドストエフスキーの古典を自分なりに料理しようという気概を感じられる作品です。