フィンランド語学習記 vol.52 − 属格について考えているうちに日本語の「の」がすっかりわからなくなってしまった話

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今週より新年度のフィンランド語教室が始まりました。通い始めから数えて、通算21週目のレポートです。

今回はこれまで習った表現を使って、みっちりと会話の練習から。

そんな中で、フィンランド語と日本語の違いに関しておもしろい事例があったので、紹介してみたいと思います。

まずはフィンランド語の属格のつくり方をおさらいしましょう。

maa(国)
maan nimi(国の名前)

名詞の末尾に[-n]を付けると「〜の」の意味になります。

以前のエントリーでは、この属格が日本語の格助詞「の」に当たると書いたのですが、どうもそう単純な話ではないということが今回の授業で判明しました。

そのときのエントリーはこちら。

[参考]フィンランド語学習記 vol.38 − 属格のつくり方 | Fragments

属格には単に[-n]を付けるだけではなく、特別な変化をする語もあります。ここでは以下の変化のみ押さえておいてください。

[主格]suomalainen(フィンランド人)
[属格]suomalaisen
*[-nen]で終わる単語は語尾が[-sen]に変化します。

それでは「フィンランド人の名前」と言いたいときは、どのような形になるでしょうか。

suomalainen nimi(フィンランド人の名前)

あれ? さきほど属格は suomalaisen になるって言いましたよね?

ここですっかりわからなくなってしまったので、先生に聞いてみるとこんなコメントが。

「日本語では、フィンランド人名前って言うけど、なんでそこで『の』を使うのかわからない。『の』はいらなくない?」

??

その後、様々な例を検証してようやく事の真相がわかってきました。もう一度、上記の例を並べてみましょう。

[属格]maan nimi(国の名前)
[主格]*maa nimi
[主格]suomalainen nimi(フィンランド人の名前)
[属格]*suomalaisen nimi
*は文法的に誤り

maa は名詞なので、nimi を修飾する時は属格 maan の形になります。一方、suomalainen は形容詞として使われているので、そのままの形で nimi を修飾することができます。

ここでは suomalainen を英語の Finnish と同じ役割をする単語として考えてもらうとわかりやすいと思います。すなわち名詞としても形容詞としても使えるということなのですね。

しかしそうだとすると属格の suomalaisen という形はいったいどのようなときに使われるのでしょうか?

わかりやすくするため段階的に単語を組み立ててみます。

名詞 opiskelija 生徒
名詞+名詞 opiskelijan nimi 生徒の名前
形容詞+名詞 suomalainen opiskelija フィンランド人の生徒
形容詞+名詞+名詞 suomalaisen opiskelijan nimi フィンランド人の生徒の名前

 
4の例で、suomalaisen が修飾する語は nimi ではなく直後の opiskelijan です。

その opiskelijan は nimi を修飾するため属格[-n]の形になっているので、それに合わせて suomalainen も属格[-sen]の形になるという次第。

フィンランド語では、形容詞はそれが修飾する名詞と同じ格になるというルールがあります。

ここまで見ていくとフィンランド語の考え方がよくわかりました。

そして明らかになったのは日本語の格助詞「の」とフィンランド語の属格[-n]は決してイコールではないということ。

もちろん重なり合っている部分もあるのでしょうが、重ならない部分もあるということです。

クラスメイトが指摘していたのですが、日本語で「フィンランド人の生徒」と言うときには必ず「の」を挟みますが、「フィンランド人留学生」のように「の」を挟まなくても成立する組み合わせもあるのです。

だとすると、先生の「なんでそこで『の』を使うのかわからない」というコメントも腑に落ちますし、フィンランド語の属格の考え方を理解したことと引き換えに、日本語の「の」が理解できなくなってしまいました。

文法は本当に奥深いです。もっとも理解しなくても使えてしまうのが母語のよいところなのではありますが。