フィンランド語学習記 vol.59 − ふたたび属格と日本語の「の」の話

以前、このブログでフィンランド語の属格と日本語の格助詞「の」についてのエントリーを書きました。

ポイントになる部分だけ、抜き出してみます。

属格とはフィンランド語の格変化の一つで、日本語の格助詞「の」に当たります。説明を聞くより、用例を見る方が易しと思いますので、まずは下記をご覧ください。

kissa(猫)
kissan nimi(猫の名前)

単語の末尾に[-n]を付けると「〜の」の意味になります。[n]と「の」は音が似ているので、感覚的に覚えやすいですね。

フィンランド語学習記 vol.38 − 属格のつくり方

 

・・・明らかになったのは日本語の格助詞「の」とフィンランド語の属格[-n]は決してイコールではないということ。

もちろん重なり合っている部分もあるのでしょうが、重ならない部分もあるということです。

フィンランド語学習記 vol.52 − 属格について考えているうちに日本語の「の」がすっかりわからなくなってしまった話

文法書では、フィンランド語の属格は日本語の「の」に当たるものとして導入することが多いものの、実際にはかなり異なる部分もあるという話です。

もちろん初学者向けの文法書でそんな細かいことを説明しても仕方ないので、枝葉ではなく幹の部分を説明しているということなのでしょう。

その後、またつらつらと考えていると、日本語の「の」というのは、ずいぶん幅広い役割をする助詞だなあということに思い当たりました。

先日読んだ『たのしい日本語学入門』によると、例えば「◯◯の本」という言い方は3通りの解釈ができるようです。

ここでは、

  • 私の本
  • 村上春樹の本
  • 坂本龍馬の本

の解釈を考えてみましょう。

 

1)私の本

これはフィンランド語の属格と同じく、本の所有者を表していると考えるのが普通でしょう。

(例)これは私の本です。

英語で言えば、my book となります。

 

2)村上春樹の本

これは村上春樹さんと知り合いではない私たちが使う場合は、村上春樹さんが書いた本という意味で使うことがほとんどでしょう。

(例)きのう村上春樹の本を読みました。

英語で言えば、a book (written) by Haruki Murakami ですね。

 

3)坂本龍馬の本

これは坂本龍馬が著書を残したという歴史的事実を知らない私たちが使う場合は、坂本龍馬について書かれた本という意味を想定するのではないでしょうか。

(例)今日は坂本龍馬の本を読みます。

英語で言えば、a book of/about Ryoma Sakamoto となります。

 

もちろん実際には、1〜3の意味を入れ替えて使うことも可能です。

しかし文脈と「の」の前に来る人名によって、意味を想起する優先順位が変わってしまうのは確かでしょう。

また日本語の「の」には、この他にもこれだけの用法があります。

フィンランド語の属格は、日本語の「の」よりは狭い用法しかないのだと思いますが、どこからどこまでが重なっているのかは現時点ではよくわかりません。

それにしても外国語を学んでいると、副産物として母語について考える機会がずいぶん多くなります。