『外国語上達法』読書ノート③ − 必要なもの

『外国語上達法』読書ノートの第三回目です。

この連載では、岩波新書より出ている千野栄一先生の『外国語上達法』を読み、感じたこと、考えたことを一章ごとにまとめていきます。

目次はこちら。

1 はじめに
2 目的と目標
3 必要なもの(←本稿)
4 語彙
5 文法
6 学習書
7 教師
8 辞書
9 発音
10 会話
11 レアリア
12 まとめ

 

必要なもの − “語学”の神様はこう語った

(著者が語学の達人であるS先生に尋ねて)

「先生、語学が上達するのに必要なものはなんでしょうか」

「それは二つ、お金と時間」

P.38

私自身の過去を振り返ってみると、大学の学部時代はいちおう英文学を専攻していたものの、真剣に語学に取り組んではおらず、お世辞にも英語が上達したとは言えません。

しかし社会人経験を挟んで、オーストラリアに留学したときには、食事と睡眠以外の大半を勉強に費やし、専門分野の知識とともにそれなりに満足のできる英語力を身に付けることができました。

これは単に国内と海外という環境の違いによるものなのでしょうか?

本書では外国語の上達に必要なものとして「お金と時間」が挙げられています。

お金が必要なのは、身銭を切ることによって投資した分の成果を上げようという意識が強くなるからです。

私の場合も、学部時代の学費は親の世話になったものの、留学資金は自分で捻出したため、勉強の姿勢に明確な差が出たのだと思います。

それではお金さえ払えば、語学は上達するのかと言えば、もちろんそんなことはありません。

お金とともに「時間」を投資する必要があるのです。

現実社会ではお金のある人ほど時間はなく、時間のある人ほどお金はないという面もあるでしょうから、これはある意味非常に公平なことなのかもしれません。

 

お金と時間が必要なことが分かったが、それではそのお金と時間で何を学ぶべきなのかというのが、私の次の質問であった。それに対して、S先生は次のように答えられた。

「覚えなければいけないのは、たったの二つ。語彙と文法」

P.41

どのような言語であっても、語彙と文法がなければ始まりません。

しかし語彙の知識はあっても文法の知識がない状態と、文法の知識はあっても語彙の知識がない状態を比較すれば、前者の方がまだましなのかもしれません。

その言語が使われているコミュニティで、初学者が何とか意思の疎通を図ろうとするとき、文法の知識だけがあっても役には立ちませんが、語彙の知識があれば何とかコミュニケーションが成立する可能性があるからです。

まずは語彙という素材を集め、それから文法という骨格を組み立てていくのが、正しい順番ということになるのでしょう。

 

外国語を習得するためには語彙と文法を覚えなければならないことが分かったが、この二つを覚えるためには何があればいいのであろうか。この問いに対しても、S先生は明快に次のように答えられている。

「外国語を学ぶためには、次の三つのものが揃っていることが望ましい。その第一はいい教科書であり、第二はいい教師で、第三はいい辞書である」

P.42

私自身の学習履歴を振り返ってみると、これまでに出会ったよい教科書、よい先生、よい辞書をすぐに思い浮かべることができます。

そういう意味ではとても恵まれた環境にいたと言えるでしょう。

これらを思い浮かべることができない場合には、新たに情報を収集し、自分に適した教科書、先生、辞書をじっくりと探してみてはどうでしょうか。

あまりにも選り好みしてしまっては本末転倒ですが、自分に合ったもの、しっくりくるものに囲まれて勉強することは、日々の学習を明るく照らしてくれます。

 

本章のまとめ

  • 外国語の上達に必要なものは、お金と時間
  • お金と時間を使って学ぶべきものは、語彙と文法
  • 語彙と文法を学ぶために必要なものは、よい教科書と教師と辞書

「語彙/文法/教科書/教師/辞書」の各項目に関しては、次回以降のエントリーで更に詳しく見ていきます。