『外国語上達法』読書ノート⑥ − 学習書

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『外国語上達法』読書ノートの第六回目です。

この連載では、岩波新書より出ている千野栄一先生の『外国語上達法』を読み、感じたこと、考えたことを一章ごとにまとめていきます。

目次はこちら。

1 はじめに
2 目的と目標
3 必要なもの
4 語彙
5 文法
6 学習書(←本稿)
7 教師
8 辞書
9 発音
10 会話
11 レアリア
12 まとめ

 

学習書 − よい学習書の条件はこれだ

まず第一に、語学の学習に際して、教科書と自習書の区別をしっかりと立てておかなければならない。

P.89

私が今通っているフィンランド語教室では『suomea suomeksi』という教科書を使っています。

この本の特徴は、第一課からすべてフィンランド語のみで書いてあること。英語すらどこにも出てきません。

そのため教室で使うには適しているものの、初めてフィンランド語に触れる人がこの本で独学するのは、あまりおすすめできません。

一方、書店に置いてある『フィンランド語が面白いほど身につく本』『フィンランド語のすすめ』といった学習書(自習書)は、それぞれスタイルは違うものの、初めてフィンランド語に取り組む人でも、一から独学できるように内容が構成されています。

英語やフランス語といったメジャーな言語であれば、この学習書の選択は選り取り見取り。多くの出版物の中から、自分に合うものを選ぶことができるでしょう。

しかし選択肢が多いということは、それだけ選択が難しいということでもあります。

以下にその選択の基準を見ていきましょう。

 

適切なサイズは?

初歩の語学の教科書なり自習書は、薄くなければならない。

P.95

現在の日本で市販されている学習書を見ると、薄めの本が中心であり、不必要に厚い本というのはあまり見られない気がします。

「これ一冊だけで完璧になる」などと煽る本は避けつつ、まずは学習の中心となる薄めの本を一冊選びましょう。

そしてある程度学習がすすんできたら、リファレンスとしての辞書や文法書を揃えていけばよいのではないでしょうか。

なお薄めの本と言ったときに、私がイメージする典型的な学習書は、白水社の『ニューエクスプレス』シリーズです。

様々な言語に対応していますし、最初に手に取る本としては理想的なサイズだと思います。

 

ニューエクスプレス ブラジルポルトガル語
香川 正子
白水社
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単語

次に単語のあげ方であるが、単語は訳をつけて、各課ごとにあげてあり、巻末に全体のグロッサリーがあることが望ましい。

P.97

著者は初歩の語学では、やみくもに辞書を引くより、予め意味を付してある単語群を利用して語彙を増やすことをすすめています。

私自身の経験を振り返ってみても、辞書が語学の主役に躍り出るのは、中級以降かなと思います。

ただし初心者であっても、知らない単語の意味を調べたいという状況はありますので、手元に辞書を置いておくこと自体は問題ないでしょう。

ここで言っているのは、初心者のうちは、一つ一つの単語を辞書を引きながら覚えていくのは非効率なので、基本単語に関してはまとめて覚えてしまおうということなのだと思います。

 

文法

文法に関していえば、大切で重要な項目をまず重点的に覚えさせるようになっている学習書がよい。

P.98

大切な項目として早い時期にとりあげられた項目は、その後も何度か本の中に登場させ、容易に記憶させるような工夫が大切なのである。

P.100

考えてみると、大切な項目というのは言語によって異なります。

英語であれば語順が大切ですし、フィンランド語であれば名詞などの格変化が大切です。

そう考えると、ある言語を初めて勉強しようとする人が、学習書をパラパラとめくって上記の基準について判断するのは難しいかもしれません。

何らかの方法で、経験者の判断を仰ぐべきなのだと思います。

しかし話を英語に限れば、これらの条件を理想的に満たしている本をひとつ挙げることができます。それは中学英語の検定教科書。

出版社によって差はあるものの、

  • 中1=現在進行形、助動詞、過去形
  • 中2=不定詞、比較
  • 中3=受動態、現在完了、関係代名詞

など様々な文法項目を習得順序に細心の配慮を払った上で構成してあります。

中学時代に学校で使っていた教科書をありがたく思っていたという人はあまりいないかもしれません。しかし成人してから、英語以外の学習書を探そうとしたときに、英語の検定教科書がいかに恵まれていたか気付くというケースは多いのではないでしょうか。

ただし教科書はあくまで教科書なので、そのまま独学に使える訳ではありません。

もし検定教科書と同レベルの学習書を見つけることができたとしたら、それは非常に幸運なことだと思います。

 

本章のまとめ

まず教科書と自習書(学習書)の違いを知ること。

その上でよい学習書の条件は、

  • 薄いこと
  • 最初に覚えるべき単語の一覧とその意味がのっていること
  • 文法項目の配列に配慮があること

以上、学習書を選ぶ際の参考にしたいものです。

 

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