『外国語上達法』読書ノート⑩ − 会話
『外国語上達法』読書ノートの第十回目です。
この連載では、岩波新書より出ている千野栄一先生の『外国語上達法』を読み、感じたこと、考えたことを一章ごとにまとめていきます。
目次はこちら。
1 | はじめに |
2 | 目的と目標 |
3 | 必要なもの |
4 | 語彙 |
5 | 文法 |
6 | 学習書 |
7 | 教師 |
8 | 辞書 |
9 | 発音 |
10 | 会話(←本稿) |
11 | レアリア |
12 | まとめ |
会話 − あやまちは人の常、と覚悟して
Learning & Use
外国の人と流暢に会話をかわしている人をみて、自分もああいう風に話せたらなと願うのは自然な感情であろう。
P.162
会話というのは日常のありふれた技術でありながら、外国語の学習においては「日常会話ができる」ということがしばしば最終目標になることすらあります。
「日常会話ができる」というのは、本当にそれほど高いハードルなのでしょうか?
英語の例で言うと、日本人の多くはすでに一定の会話力を身に付けています。
義務教育を終えた人なら、外国人を前にして、少なくとも自己紹介をしたり、相手の名前や出身を訪ねたりすることはできるでしょう。
しかしそれをフランス語やポルトガル語でやろうとしても、ほとんどの日本人はできないはずです。
そういう意味で日本人に足りないのは、よい意味での開き直りではないでしょうか。
外国語の習得プロセスにおいて、学ぶこと(learning)と使うこと(use)は一対を成しています。
特に語学の中級以降では、学習における use の割合を意識することで、上級への道が見えてくると言えるでしょう。
*ここで言う use というのは、会話だけではなく、読書・映画鑑賞・メールのやり取りなど様々な言語活動の総称を指しています。
学んだだけで使わない外国語というのは、購入しただけで演奏しない楽器のようなものではないでしょうか。
そういう意味で英語の授業というのは、音楽や美術や体育と同じ実技教科であるべきだというのが、私の考えです。
会話に伴う二つの困難
外国語で書いたり話したりできるようになるためには、これまでバラバラに習得されて来たその外国語の知識を、一つのまとまりのある全体へと組み上げていくプロセスを学ばねばならない。
P.163
会話が持つもう一つの大きな困難は、会話は翻訳と違って、短い時間しか考慮のための時間が与えられていないことである。
P.167
外国語を”使う”ということは、その知識を断片的にではなく統合的に使うということを意味しています。
さらに会話のようなリアルタイムコミュニケーションにおいては、瞬間的に相手の話していることを理解し、瞬間的に自分の考えを伝える必要があります。
こうして書いてみると、日常会話のハードルが高いというのも頷ける気がします。
なお外国語の会話が苦手という場合には、相手の話していることが聞き取れないケースと、伝えたいことが上手く言葉にできないケースがあるでしょう。
後者を克服するための実戦的な練習としては、通訳の訓練に使われるクイック・レスポンスがあります。
みなさんの中には、単語カードを作って、語彙の暗記に取り組んでいる人もいるでしょう。
普通のやり方では、片面に日本語、片面に英語を書いておき、日本語を見て英語に直すことができたらOKという風に、覚えている単語と覚えていない単語を選り分けていくのだと思います。
そこで単語を選り分ける基準を、英語に直すことができたらOKではなく、2秒以内に英語に直すことができたらOKというようにスピードを意識したものにしてみましょう。
さらに慣れてきたら、単語ではなくフレーズや文の単位で同様の練習を行っていきます。
これはアウトプットのための基礎訓練としては、かなり有効な方法だと思います。ぜひお試しください。
Beyond Accuracy
アウトプットを困難にするもう一つの要因に、間違いへの恐怖心があります。
日本人の場合は、特にこの要因が大きいのかもしれません。
しかし下記のような文は、学校のテストでは減点されるかもしれませんが、相手に過不足なく意味を伝えることはできています。
*Yesterday we play tennis.(過去形の ed がない)
科学的な根拠はないのですが、英語というのは比較的、文法が間違っていても通じやすい言語なのではないかと思います。(格変化などの語形変化が豊富な言語ではおそらくこうはいかないでしょう。)
それでもどうしても間違いが怖くなってしまう人は、外国の人にカタコトの日本語で話されたときにどう感じたか思い出してみてください。
きっと「ほほえましい」とか「頑張っているな」とは思っても、あまり不愉快になったということはないのではないでしょうか。
本章のまとめ
会話力アップのために必要なのは、
- 学んでいる言葉を”使う”こと
- アウトプットのスピードを意識すること
- そして何よりも間違いを恐れないこと!