「どういたしまして」の意味を考えてみる

英語で Thank you. とお礼を言われたら、何と答えますか?

手元の『Practical English Usage』を開いてみると、次のような表現が紹介されていました。

1 Not at all.
2 You’re welcome.
3 Don’t mention it.
4 That’s(quite)all right.
5 That’s OK.(informal)
6 No problem.(informal)

 
日本で英語を習った人なら、真っ先に思い付くのはおそらく You’re welcome. でしょう。これはアメリカ式の表現です。

その他にも、地域によって、また相手との関係性によって、さまざまな表現を用いることがあります。

以前住んでいたオーストラリアでは、No worries. という表現が一般的でした。これはいかにも Aussie な表現だと思います。

 

さて英語ではなく、日本語で「ありがとう」とお礼を言われたら、みなさんは何と答えますか?

インフォーマルな表現は多々あるものの、おそらく「どういたしまして」がもっとも一般的な表現でしょう。

私たちは日常生活で何の疑問もなくこの表現を使っています。しかしもし私が日本語を外国語として学ぶ立場だったら、次のような疑問を感じるに違いありません。

「どういたしまして」というのは、いったいどういう意味なのですか?

英語は単語ごとに分かち書きをすることもあり、内部構造を容易に把握することができます。例えば、You’re welcome. なら「あなたは歓迎されています。」、Don’t mention it. なら「それには触れてくれるな。」という意味ですね。

その点「どういたしまして」という言い回しには、どうもわかりにくいところがあります。

その謎を解くため、いくつか辞書を当たってみたところ、ウィクショナリー日本語版の説明がわかりやすかったので引用してみます。

どう、いたし・まし・て<「どう(どのように、何を)」+「いたす(「する」の謙譲語)」+「ます(丁寧語を造る助動詞)」+「て(反問的用法の終助詞)」)。
「何を、したというわけでもありませんよ(だから、気になさらないでください)」の意

「(私、あなたのために)何かをしましたか? いや何もしていません。」というニュアンスなのですね。

そう思って「どういたしまして」と呟いてみると、腑に落ちるとともに、このありふれた表現がとても美しい響きの日本語に聞こえてくるのが不思議です。