フィンランド語学習記 vol.94 − ルールを覚え、ルールを忘れる
動詞の活用形を覚える方法について、以前のエントリーにこんなことを書きました。
瞬間的に活用形が出てくるようになるためには、どのような練習をしたらよいでしょうか?
いろいろと考えた結果、次のような単語カードを作成して、表面の日本語を見ながら、裏面のフィンランド語を瞬間的に出力する練習をするのはどうかと思いました。
表面 裏面 私は知っている。 Minä tiedän. あなたは知っている。 Sinä tiedät. 彼は知っている。 Hän tietää. 私たちは知っている。 Me tiedämme. あなたたちは知っている。 Te tiedätte. 彼らは知っている。 He tietävät.
どれほどの効果があるかはわかりませんが、まずはこの方法で練習してみたいと思います。
その後、次のような単語カードを作成し、実際に練習してみました。
繰り返していると、そのうち活用形が自然に口をついて出てくるようになります。
その際、活用形をつくるプロセスをあれこれ考えることはありません。
「私は知る」→「minä tiedän」と一気に変換します。
一方 tietää(知る)という動詞の活用形を作る方法を順序立てて説明しようとすると、次のようになります。
ステップ1)動詞のタイプを判定する
一般的な分類では、フィンランド語の動詞は辞書形の綴りによって6つのタイプに分けられます。
タイプ1 | 2つの母音で終わる動詞 |
---|---|
タイプ2 | [dA]で終わる動詞 |
タイプ3 | [lA, nA, rA, stA]で終わる動詞 |
タイプ4 | [AtA, OtA, utA]で終わる動詞 |
タイプ5 | [itA]で終わる動詞 |
タイプ6 | [etA]で終わる動詞 |
今回の tietää は2つの母音で終わっているので、タイプ1の動詞と判定できます。
ステップ2)語末の[-a/-ä]を外す
タイプ1の動詞は語末の[-a/-ä]を外してから活用形を求めます。すなわち、
となります。
ステップ3)kpt 交替のチェック
末尾の音節に[k, p, t]が含まれていたら、そのときは要注意! 子音の変化が起こる可能性があります。
tietä には[t]が含まれていますね。
出でよ変化表!
kk | ←→ | k |
k | ←→ | × |
uku | ←→ | uvu |
yky | ←→ | yvy |
nk | ←→ | ng |
lke | ←→ | lje |
rke | ←→ | rje |
hke | ←→ | hje |
pp | ←→ | p |
p | ←→ | v |
mp | ←→ | mm |
tt | ←→ | t |
t | ←→ | d |
nt | ←→ | nn |
lt | ←→ | ll |
rt | ←→ | rr |
タイプ1の動詞は、左から右へ子音が変化します。
変化表を見ると、下から4番目に[t→d]という変化がありました。すなわち、
となります。
ステップ4)人称ごとの活用語尾を付ける
タイプ1の動詞の活用形は、次のような語尾を付けることによって作ります。
4-1 | 単数 | 複数 |
---|---|---|
一人称 | -n | -mme |
二人称 | -t | -tte |
三人称 | 母音を重ねる | -vat/-vät |
上記のボックスにさきほどの tiedä を放り込んでみましょう。
どん!
4-2 | 単数 | 複数 |
---|---|---|
一人称 | tiedän | tiedämme |
二人称 | tiedät | tiedätte |
三人称 | tiedää | tiedävät |
ここでまた要注意! タイプ1の動詞の三人称には、ステップ3の kpt 交替が反映されません。
よって微調整の結果、次のような変化となります。
4-3 | 単数 | 複数 |
---|---|---|
一人称 | tiedän | tiedämme |
二人称 | tiedät | tiedätte |
三人称 | tietää | tietävät |
「4-2」と「4-3」の表をよーく比べると、三人称の綴りが少し変わっていることがわかると思います。
まとめ
tietää の活用形を作る方法をきちんと説明しようとすると、このようにずいぶんスペースを費やしてしまいます。
しかし単語カードを使って繰り返し練習すれば、「私は知っている」を見て、すぐに「minä tiedän」と言えますし、「彼は知っている」を見て、すぐに「hän tietää」と言うことができます。
最近は「minä tietän」「minä tiedää」という(間違いの)音に違和感を感じるくらいの感覚は身に付いてきました。
このとき、活用形を作るためのルールはいったん頭の中から離れています。
では初めからルールなど覚えずに、繰り返し練習することで自然に覚えていけば良いのでは?という疑問も出てくるでしょう。
しかしある言語における動詞の数というのは膨大です。ルールを覚えていなければ、新しい単語に出会ったときに既知のルールを援用することができません。
よってまずルールをしっかり覚え、そのルールをいったん忘れて練習を繰り返し、必要なときにまたルールを思い出すというサイクルが必要になるのだと思います。
三歩進んで二歩下がる。ゆっくりとした歩みですが、前に進んでいることは確かです。今日もコツコツと頑張りましょう。