雨の表現とオノマトペ

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エスキモー(イヌイット)語には、雪を表す語彙がたくさんあるという説が広まったことがありました。

実際にはそんなことはないようなのですが、この説には信じるに足るだけの説得力があることも確かです。

常に雪に囲まれている地域に暮らしていれば、雪の性質に敏感になるのも当然という気がします。

一方、日本語には、雨に関する多様な語彙があります。

『新明解国語辞典』で「◯◯雨」という表現を拾ってみたところ、これだけの単語が引っかかりました。シベリアやアラスカが雪の地域なら、四季を通じて雨量の多い日本は雨の地域と言えるでしょう。

秋雨、煙雨、大雨、空梅雨、気違い雨、強雨、霧雨、降雨、豪雨、穀雨、小雨、小糠雨、五風十雨、細雨、五月雨、小夜時雨、山雨、地雨、慈雨、時雨、櫛風沐雨、驟雨、集中豪雨、宿雨、春風秋雨、硝煙弾雨、晴雨、蝉時雨、多雨、弾雨、血の雨、梅雨、照り雨、照り降り雨、天気雨、通り雨、長雨、菜種梅雨、涙雨、俄か雨、糠雨、白雨、走り梅雨、春雨、微雨、氷雨、日照り雨、一雨、風雨、暴風雨、村雨、村時雨、猛雨、遣らずの雨、雷雨、涼雨、緑雨、霖雨、冷雨

この中には雨ではないもの(弾雨など)も若干含まれていますが、それでもこれだけの表現があるというのは壮観です。

例えばこんな表現。

菜種梅雨(なたねづゆ)

三月下旬から四月にかけて、菜の花〔=アブラナ〕の盛りのころ、一度暖かくなった後に小雨が降り続いて寒くなったりする天気

いかにも日本語だなあという感じの、いつまでも辞書に残ってほしい表現だと思います。

この他、日本語には雨の降り方を表すいくつかのオノマトペが存在します。

しとしと

(副)雨が静かに降る様子。

例えば、英語圏の人に「しとしと」ってどんな感じ?と聞かれたら、何と答えますか?

おそらく drizzle(細雨)という単語に比較的近いような気がするのですが、それでもしとしとが持つ雰囲気をきちんと伝えるのは難しいような気がします。

『類語例解辞典』には、このしとしとを含め、さまざまなオノマトペの使い分けが紹介されています。

しょぼしょぼ/しとしと/ぽつぽつ/ぱらぱら/ばらばら/ざあざあ

[使い分け]

【1】雨の勢いは、「しょぼしょぼ」「しとしと」「ぽつぽつ」「ぱらぱら」「ばらばら」「ざあざあ」の順で激しくなる。

【2】「しょぼしょぼ」は、「しとしと」に近いが、陰気で情けないイメージがある。「しとしと」は、音もたてずに細かい雨が降る様子をいう。「ぽつぽつ」は、まばら、「ぱらぱら」は、それよりもう少し多く、勢いもあり、軽く音がするさま。「ばらばら」は「ぱらぱら」よりもさらに粒が大きく音も大きいさま。「ざあざあ」は、雨の降り方のなかでは最も大量で勢いが強い。[英]gently(しとしと); heavily(ざあざあ)

【3】「ぽつぽつ」「ぱらぱら」「ばらばら」は、雨の降り始めの表現として用いられることが多い。

【4】雨の降るさま以外に使われることがないのは、「しとしと」だけである。

【1】の記述はそこまで言い切れるのか?とやや疑問に思うものの、順位を付ければ確かにこんな感じかなあとも思います。

この中ではやはり「しとしと」に日本語らしい繊細さと情感を感じるのは、私だけでしょうか?