「I play a piano.」は文法的に間違っているか?

中学1年の英語の授業で play という動詞を習ったとき、こんな例文が出てきたのを覚えています。

I play tennis.
I play the piano.

スポーツの前は無冠詞、楽器の前には the を付けるという風に習いました。

あのころは何の疑いもなく受け入れていましたが、改めて考えてみるとなぜ楽器の前には the を付けるのでしょう。

「I play a piano.」「I play piano.」は文法的に間違っているのでしょうか?

Google でそれぞれのコロケーションを検索してみたところ、以下のヒット数となりました。

  • 「play the piano」78,400,000件
  • 「play a piano」3,900,000件
  • 「play piano」3,320,000件

「play the piano」が圧倒的に多いものの、「play a piano」「play piano」も無視できる数ではありません。

この違いに関して『ロイヤル英文法』は次のように説明しています。

Q&A 30 「ピアノを弾く」という場合には必ず the がつくか? 

つけるのがふつう。play ~ の形は「スポーツ・ゲームをする」の意味では無冠詞で play baseball、play chess などのようにいうが、「(楽器を)演奏する」の意味では play the piano、play the violin のようにいうのがふつうである。これは総称単数の用法とも特定の楽器をさす用法とも考えられる。play a piano も可能だが,不定冠詞を用いるのは、play an old-fashioned piano(旧式のピアノを弾く)のように修飾語句がつくときが多い。また、無冠詞の例はプロの奏者や、バンドの中でピアノのパートを受け持っている場合などに見られる。なお、piano が「ピアノを弾くこと」の意味のときは無冠詞になる。

She taught piano for more than 30 years.
(彼女は30年以上ピアノを教えた)

やはり文脈によっては「play a piano」という言い方もあるんですね。

ただし何の文脈もなく「I play a piano.」と言ってしまうと、「私はこの世界の中のある一台のピアノを弾く」というニュアンスになってしまうのだと思います。実際にはピアノを弾く以上さまざまなピアノを弾く可能性がある訳ですから、a を付けてしまうとやや不自然な表現になるのかと。

「無冠詞の例はプロの奏者に見られる」とあるのは、その楽器を弾くことがすっかり習慣化してしまい、楽器そのものよりも、演奏という行為に焦点が移っているのかもしれません。

おそらく「go to school」の school に冠詞を付けないのと同じ理由なのだと思います。

また『ウィズダム英和辞典』の play の項では、楽器の前に the 以外が来る例がいくつか紹介されていました。

play の後に続く楽器の前に置かれる the は時に省略されるが、その傾向は(主に米)、特に演奏者やその関係者に強く見られる。また、文脈によって a, one’s, this などが用いられることもある。

Well, I’d love to play the piano. I love music, and I do play piano.

(今の職業以外になりたい職業を聞かれて)そうねえ、ピアノが弾きたいわ、音楽が好きなの、私ピアノを弾くのよ

Someone’s playing a piano.

誰かがピアノを弾いている(「(どんなピアノだかわからないが)ある(種の)ピアノ」の意)

Daddy would play my piano and sing before he died.

父は生前よく私のピアノを弾いて歌ったものだ。

こうして改めて見ると、実に複雑な冠詞の世界。

英語ネイティブの人なら、おそらく子供でも簡単に使い分けるのでしょうが、アタマで覚えようとすると難しいですね。

もし英語を習っている子どもに「この文では、なぜ the を使わないの?」と聞かれたら、「これは例外!」と言って済ませるほかなさそうです。

ロイヤル英文法改訂新版 ロイヤル英文法改訂新版
価格: ¥1,500(記事公開時)
カテゴリ: 辞書/辞典/その他, 教育
App Storeで詳細を見る


ウィズダム英和・和英辞典 2 ウィズダム英和・和英辞典 2
価格: ¥2,800(記事公開時)
カテゴリ: 辞書/辞典/その他, 教育
App Storeで詳細を見る