ピンクとナデシコ

9月に発売された iPhone 5c には「ホワイト」「ピンク」「イエロー」「ブルー」「グリーン」の5色のカラーバリエーションがありました。

このうち最も人気があった色はどれでしょう?

アメリカでの調査結果を AppBank ニュースが紹介しています。

結論から言うと、男性にはホワイトとブルー、女性にはピンクの人気が高かったようです。

この結果を見て「意外」と思う人はおそらく少ないでしょう。

特にピンクという色は、現代社会においては、女性的なイメージと結びつけて用いられることが多いと思います。

しかしそんなピンク(pink)という単語が、今のように「色」を表すようになったのは、実はそれほど昔のことではありません。

『Online Etymology Dictionary』によると、pink という単語の初出は1570年代。しかしその頃にはまだ色名としての用法はなく、花の名前(ナデシコ)として使われていました。

色名としての最初の記録は1733年ということですので、意外に新しい用法なのだということがわかります。

1570s, common name of Dianthus, a garden plant of various colors, of unknown origin. Its use for “pale rose color” first recorded 1733 (pink-coloured is recorded from 1680s), from one of the colors of the flowers. The plant name is perhaps from pink (v.) via notion of “perforated” petals, or from Dutch pink “small” (see pinkie), from the term pinck oogen “half-closed eyes,” literally “small eyes,” which was borrowed into English (1570s) and may have been used as a name for Dianthus, which sometimes has pale red flowers.

『Online Etymology Dictionary』

ピンクという単語はすっかり日本語化して私たちの日常に入り込んでいるため、あまり意識されることがないのですが、英語の pink には今でも植物の「ナデシコ」という意味があります。

pink

3(植)ナデシコ<ナデシコ科ナデシコ属(Dianthus)植物の総称;特にトコナデシコ(D. plumarius);広く栽培されており、白やピンクや赤やさまざまな色の芳しい花をつける;garden pink ともいう>

『ジーニアス英和大辞典』

昨今「ナデシコ」という名前から連想するのは、女子サッカー日本代表のなでしこジャパンでしょうか。

また「撫子色」のように色名として用いられたときには、いわゆる原色のピンクよりも、落ち着いた色調を指すことが多いようです。

例えばこんな感じ。

元々は「pink=ナデシコ」であったのに、いつの間にか微妙に異なる色を表すようになったというのは、面白い現象ですね。

ほんの少し発色を抑えただけで、とても品のある色になっていると思います。

個人的な好みではありますが、工業製品や街の彩りにこのような和色が多く用いられるようになると、今よりも目にやさしい世界になるのではないでしょうか。