オムニバス(omnibus)の語源とは?

photo credit: Daniele Zanni via photopin cc

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ショパンの「雨だれ」は大好きなクラシック曲の一つ。

この曲を最初に聞いたのは黒澤明監督の映画『夢』の中の「鴉」という一篇でした。

主人公の寺尾聰はゴッホの絵を見ているうち、絵の中に入り込み、原色の絵画の世界をさまよいます。幻想的な世界。

その背後に流れている「雨だれ」の旋律が強く印象に残り、これは何という曲だろう?とすぐに調べたことを覚えています。

『夢』は、この「鴉」を含む全八篇から成るオムニバス映画。

一般にオムニバス映画(omnibus film)というと、同一の監督による短編集を指す場合もありますし、複数の監督による短編集を指す場合もあります。

このオムニバス(omnibus)というやや風変わりな英語の語源は何でしょう?

omnibus は、もともと「すべての人のために」を意味するラテン語。そこから派生して「乗合馬車」を意味する単語になりました。

omnibus (n.)

1829, “four-wheeled public vehicle with seats for passengers,” from French (voiture) omnibus “(carriage) for all, common (conveyance),” from Latin omnibus “for all,” dative plural of omnis “all” (see omni-).

『Online Etymology Dictionary』

現在も世界中で走っている bus は、この omnibus が省略された形。

1829年時点の omnibus の定義「four-wheeled public vehicle with seats for passengers」はそのまま現在の bus に当てはまりますね。

また[omni-]は、all を意味する接頭辞としていくつかの英単語に使われています。

1 omnibus (1人の作家または1つのテーマに基づく)全集、大全集、作品集
(ラジオ・テレビの)総集編、編集番組
(古)バス
2 omnipotence 何でもかなえられる力、全知全能
3 omnipotent 全能の、何でも思い通りにできる
4 omnipresent (同時に)どこにでもいる、(いたる所に)いつも見られる、遍在する、普遍的な
5 omnipresence 遍在
6 omniscience 全知、(無限の)英知
7 omniscient 全知の、通暁した、無限の知識を持つ
8 omnivore 雑食動物、貪欲な人
9 omnivorous 雑食性の
<人が>何にでも興味のある、雑読(家)の

*語義は『ウィズダム英和辞典』より

5)omnipresence は、初めて出会ったとき不思議な単語があるものだなあと思ったのを今でも覚えています。

「遍在」するものとは、例えばキリスト教の神。主に一神教的な文脈で使われることばなので、日本語にはあまり馴染まないのかもしれません。

しかし似たような意味のユビキタス(ubiquitous)という単語は、コンピュータ/インターネットの普及と相まっていくらか有名になりました。

2、6)omnipotence、omniscience も、omnipresence と同じく神の属性(attribution)として使われる単語。

こうして見ると[omni-]は神の接頭辞とも言えそうです。

以上、今回は omnibus の語源や接頭辞[omni-]を含む単語を紹介しました。

あまり使う単語ではありませんが、どことなく神秘的な佇まいがありますね。