フィンランド語学習記 vol.165 − 手をつないで
フィンランド語教室のテキストを読んでいたら、こんな表現が出てきました。
*he(彼らは)、istua(座る)、sohva(ソファー)、käsi(手)
käsi kädessä は「手をつないで」の意味。
käsi が「手」の意味であることはわかるものの、kädessä の意味は何だろう?と思い、調べてみることに。
kädessä の語末についている[-ssä]は、「〜の中に」を表すフィンランド語の格語尾。
よって käde という単語があるのかと思い、辞書を引いてみたものの見つからず。
käde(?) | 格語尾[-ssä]を付ける | → | kädessä(?の中に) |
??
考えること数分。。。わかりました!
フィンランド語では、語幹の中に[k, p, t]の文字が含まれているときは[-ssä]のような格語尾の接続に伴って、語幹の[k, p, t]部分が変化することがあります。
下記の[k, p, t]変化表を参照すると、下から4行目の[t←→d]という変化が目にとまります。
kk | ←→ | k |
k | ←→ | × |
uku | ←→ | uvu |
yky | ←→ | yvy |
nk | ←→ | ng |
lke | ←→ | lje |
rke | ←→ | rje |
hke | ←→ | hje |
pp | ←→ | p |
p | ←→ | v |
mp | ←→ | mm |
tt | ←→ | t |
t | ←→ | d |
nt | ←→ | nn |
lt | ←→ | ll |
rt | ←→ | rr |
すなわち格語尾[-ssä]の接続に伴い、語幹部分が、
と変化したと考えられます。
それなら kate という単語があるのだろうと思い、辞書を引いてみたもののやはり見つからず。
käte(?) | [k, p, t]の変化を適用 | → | käde |
käde | 格語尾[-ssä]を付ける | → | kädessä(?の中に) |
??
ふたたび考えること数分。。。今度こそわかりました!
さきほどの[k, p, t]の変化を適用する前に、フィンランド語にはさまざまな語幹変化のルールがあります。例えば、
käsi → käte(手)
つまり「手」を意味する単語 käsi が次のような段階を経て kädessä に変化したということなんですね。
käsi(手) | 語幹をもとめる | → | käte |
käte | [k, p, t]の変化を適用 | → | käde |
käde | 格語尾[-ssä]を付ける | → | kädessä(手の中に) |
これですっきり。
冒頭に挙げた文の käsi kädessä はいわゆる英語の hand in hand に当たる表現だということもわかりました。(*フィンランド語の内格[-ssä]は英語の in に当たる。)
ということで今回のエントリーは kädessä という謎の単語の辞書形が、すぐ左隣にある käsi であることに気付くまで10分以上もかかったというお話でした。
おそるべし、フィンランド語。
3月 15, 2014 @ 06:47:41
käsi, vesiはiで終わる古い言葉グループに属します。
käasi, vesi, 他にはuusi, vuosiなど、
正確に言うとsiで終わる古い言葉で例外的な変化をします。
例えば文格はkättä, vettä, uutta, vuottaという風に独特です。
同じく語幹も独特で、käsiの語幹はkäteでは無く、kädeです。
vesiはvede, uusiはuude, vuosiはvuodeという感じ。
kpt変化はこの語幹から適用されるので以下のようになります。
kädessä, kädestä, käteen
vedessä, vedestä, veteen
uudessa, uudesta, uuteen
vuodessa, vuodesta, vuoteen
d→tの変化ですが、ご覧の通り入格のみです。
どうしてkäsiの語幹がkädeなのかと聞いた事もありますが
先生の答えはとにかく覚えろ!とのことでした。
siで終わる古い言葉はそれほど数が多くないので、
使いながら覚えるのが手っ取り早いと思います。
フィンランド語の文法はハマると面白いのですが、
意外にも「何も考えずに覚えろ」な事が少なくないです。
これを覚えるのがまた、一苦労なんですけどね〜。
名詞は動詞よりも厄介です…
3月 15, 2014 @ 06:48:46
文格と書いてました!正確には分格ですね。
失礼しました。
3月 16, 2014 @ 23:19:41
No.55にありますように,käsiの子音語幹はkät,母音語幹はkäteです。
分格は子音語幹からkät+tä → kättä
属格,内部格,外部格は母音語幹käteから → käde → käden, kädessä, kädestä, käteen, kädellä, kädeltä, kädelle, jne.
ちなみにフィン・ウゴル古語ではkäteだそうで,現代エストニア語ではkäsi,カレリア語:kjazi,北方サーミ語:giehta,ハンガリー語: kezだそうです。
3月 21, 2014 @ 11:54:20
コメントありがとうございます。なかなか複雑な問題ですね!
調べてみると『フィンランド語文法ハンドブック(白水社)』では、vesi の母音語幹として vete, vede の二つが併記されていました。
自分の場合は、フィンランド語教室で「分格を作るときには k, p, t の変化を適用しない」と習ったので、語幹は vete と考える方がしっくりきます。
一方『ニューエクスプレス フィンランド語(白水社)』には、語幹は vede と書いてあります。
きっとそのように導入する先生もいるのでしょう。
初学者に言葉を教えるときには、その段階で「何を教えて、何を教えないか」という取捨選択の部分にその先生の技量が表れますし、そこでは規範文法が唯一の解という訳ではありません。
例えば、英語の場合には次のような議論がよくあります。
英語の先生:英語の未来形は will+動詞の原形です。
規範文法学者:いやいや英語の時制に未来形はありません。wil はただの助動詞です。
英語の先生:主語が三人称単数現在のときには、動詞の末尾に[-s]を付けます。
規範文法学者:いやいや[-s]が付くということは、仮定法ではなく直接法であることも意味します。ですから三単現ではなく三単現直のsと言わなければなりません。
などというように、文法をどのレベルでとらえるのかは立場によって異なってくるのだと思います。
興味深い問題だったので、つい長文になってしまいました。意図するところを汲んでいただければ幸いです。
4月 20, 2014 @ 06:44:26
私の中途半端な知識で混乱を招いてしまったようで申し訳ありません。
Jussiさんの書き込みを読んで、先生に質問してみました。
答えはやっぱり「käsiの語幹はkäde」だったので、käteについても聞いてみました。
そこでやっとkonsonanttivartaloという言葉が。
実はこちらで3人の先生からフィンランド語を習ったのですが、
なんと一度もこの子音語幹を習った事がありませんでした。
なぜなのか聞いてみたところ、「学習者が混乱するからだと思う」とのこと。
「käsiについて言えば格変化時はkäde-が殆どでしょう?」と…
「一般の学習者を対象とした教則本で子音語幹に言及してる物は殆ど無い思う」のだそうです。
kpt変化には音節も関係していて重要なのですが、これも基本学びません。
先生に質問してやっと詳しく教えて貰ったくらいです。
whitebearさんが仰る通り、これぞ「何を教え何を教えないか」という事ですね。
ちなみに現在のフィンランド語コースで使っている教科書は
Kieli käyttöön suomen kielen jatko-oppikirja です。
以前は同シリーズの入門編、更にその前はHyvin menee!でした。
自習用にはSuomen kielioppia ulkomaalaisille, Tarkista tästäを使っています。
全てフィランド語で書かれている本ですが、ご参考までに。
4月 24, 2014 @ 00:32:18
latelammasさん
コメントありがとうございます。なるほど、フィンランドの先生は「まずはkäde!」という感じなんですね。
手元の『フィンランド語文法ハンドブック』には「子音語幹」についても詳しく書いてありますが、正直「これは難しい〜」という印象。
フィンランドの先生のように「そんなのもあるよ」くらいのスタンスでもよいのかなと思いました。
教科書の名前もご紹介いただきありがとうございます。フィンランドに行くことがあったら、いろいろ買い込んでみたいと思います!