リスニング力アップのためにDVDで映画を観るとき、字幕表示はいったいどのように有効なのか?

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語学におけるリスニング力アップのためのトレーニングというと、一昔前はカセットテープやCDあるいはラジオなど、音声のみの教材を利用するのが主流でした。

しかし昨今はインターネット上の動画やDVD/ブルーレイによる映画鑑賞など、映像付きの教材(というより生の素材)が主流になっています。

そのような映像素材には、複数の言語字幕を表示できるものも多くあります。

例えば、ハリウッドの映画をDVD/ブルーレイで見るときには、もちろん日本語字幕を表示しながら観ることもできますし、英語字幕を表示しながら観ることもできます。

映画鑑賞を英語学習の一環として利用している人なら、おそらく英語字幕を選択しているケースが多いのではないでしょうか。

あるいは上級者なら字幕なしで観るという人もいるでしょう。

映画を楽しむだけなら字幕があった方がよいのは当然ですが、リスニング力の向上につなげたいときには果たして字幕を表示するべきなのでしょうか?

そのヒントを探して『Teaching and Learning Second Language Listening: Metacognition in Action』という第二言語習得理論の専門書をめくっていたら、まさにこの問題を扱う「Captions and Subtitles」というセクションがあり、いくつかの研究結果が紹介されていました。

今回のエントリーでは、字幕に関する疑問点を以下の三点に集約し、上掲書からその答えを探ってみたいと思います。

Q1. 字幕表示は、リスニングのサポートとして有効なのか?
Q2. その際、第一言語と第二言語のどちらの字幕が有効なのか?
Q3. 字幕表示は、そもそもリスニング力アップに貢献しているのか?

 

Q1. 字幕表示は、リスニングのサポートとして有効なのか?

Q2. その際、第一言語と第二言語のどちらの字幕が有効なのか?

Markham, Peter, and McCarthy(2001)の研究では、スペイン語を勉強している英語の母語話者を集めて、以下の条件でスペイン語のDVDを見てもらったそうです。

  1. 英語字幕付き(第一言語)
  2. スペイン語字幕付き(第二言語)
  3. 字幕なし

その結果、理解度の順位は以下のようになったとのこと。

(理解度高い)英語字幕 ←→ スペイン語字幕 ←→ 字幕なし(理解度低い)

この結果は当然と言えば当然。

字幕がないよりはあった方がよいですし、英語の母語話者なら、英語字幕付きが一番わかりやすいということですね。

しかしここで言う「理解度」とはそもそも何を指しているのでしょうか?

物語の内容を理解すること? それとも個々のセリフをきちんと捉えること?

別の研究で同じような実験をしたところ、第二言語の字幕を利用したグループの方が、第一言語の字幕を利用したグループよりも、その後に行った語彙テストの成績が良かったそうです。

すなわち全体的な「内容の理解度」を高めるには第一言語の字幕が勝りますが、語彙・文法など「形式の理解度」を高めるには第二言語の字幕が勝るという可能性もあるのでしょう。

 

Q3. 字幕表示は、そもそもリスニング力アップに貢献しているのか?

字幕表示が、リスニングのサポートとして有効なのはわかりました。

しかしここでまた別の疑問が生じてきます。

それは、

「字幕のサポートによって映画の内容や言語の形式をよりよく理解した」と言うとき、それはリスニングによって理解したのではなく、リーディングによって理解したにすぎないのではないか?

ということ。

そもそもリスニング力という概念には、ややあいまいなところがあります。

例えば、ABCのニュースプログラムを聞いて、ある部分で何を言っているのかわからなかったとします。

その際、スクリプトを読んで「なんだ、こんなことを言っていたのか」と納得できるなら、それはリスニング力の不足によって聴き取れなかったということになります。

しかしスクリプトを読んでも「こんな単語/表現は聞いたこともないな」と思うなら、それはリスニング以前の力(語彙・表現力)が不足していたということになります。

おそらく、これらをきちんと分化してトレーニングするのは不可能に近いでしょう。

とはいえ、語学に取り組む人は「リスニング力だけを強化したい!」とか「語彙・表現力だけを強化したい!」と考えている訳ではないでしょうから、そのあたりは曖昧でも、とにかくインプットによって総合的な理解力が伸びていけばそれでよいのだろう、というのが当座の結論でしょうか。

この問題はなかなか奥深いので、改めてじっくり考えてみたいと思います。