フィンランド語学習記 vol.203 − フィンランド語に冠詞はないというものの

14070201

フィンランド語を学習する日本人にとって嬉しいことの一つは、フィンランド語には冠詞がないということ。

しかしフィンランド語の文法書『Finnish: An Essential Grammar』を読んでいたら、冠詞がないとは言ってもそれに近い概念はあるということがわかってきました。

本書ではフィンランド語の「主格」に関して、こんな解説がのっています。

Singular, non-divisible subject nouns appear in the nominative and express

(a) definite meaning at the beginning of the sentence

(b) indefinite meaning at the end of the sentence.

「単数の、分けられない」主語になる名詞は主格の形になり、
文の始めに置いたときには「定」の意味を、
文の終わりに置いたときには「不定」の意味を表す。

『Finnish: An Essential Grammar』P.120

ちょっと専門的な表現になっているので、まずは言葉の意味を整理しておきましょう。

 

分けられない(non-divisible)名詞とは?

フィンランド語には「分けられる名詞/分けられない名詞」という概念があります。

ここでは「車」と「コーヒー」の例で考えてみましょう。

車というのは、個々の部品に分解してしまうと、もはや車という名前の存在ではなくなってしまいます。(エンジンやタイヤになってしまう)

一方、コーヒーというのは、2つのカップに分けて注いでもそれぞれにコーヒーであり続けます。

よって「車=分けられない名詞」「コーヒー=分けられる名詞」ということに。

英語に馴染みがある人なら、

  • 分けられる名詞(divisible noun)→ 不可算名詞(uncountable noun)
  • 分けられない名詞(non-divisible noun)→ 可算名詞(countable noun)

と連想するかもしれません。

 

定(definite)/不定(indefinite)とは?

定(definite)/不定(indefinite)という概念は日本語の感覚だとややわかりづらいかもしれません。

例えば、次の文を比較してみましょう。

[不定]これはイリオモテヤマネコです。
[定]これがイリオモテヤマネコです。

上の文では、例えば西表島のジャングルをトレッキングしていたら、思いがけずイリオモテヤマネコに出会ったので、同行していたフィンランド人(?)に「これはイリオモテヤマネコです」と説明している場面が考えられます。

下の文では、あらかじめイリオモテヤマネコのことが話題になっていたと考えられます。その上でイリオモテヤマネコに出会ったので、同行していたフィンランド人に「これが(さきほど話していた)イリオモテヤマネコです」と説明したのかもしれません。

すなわち、

  • 定(definite)→ 話題になっているもの
  • 不定(indefinite)→ 話題になっていないもの

英語に馴染みがある人なら、

  • 定性を示す語の代表 → 定冠詞(the)
  • 不定性を示す語の代表 → 不定冠詞(a/an)

と覚えておくとわかりやすいのではないでしょうか。

 

用語の意味を押さえた上で、さきほどの引用をもう一度見てみましょう。

Singular, non-divisible subject nouns appear in the nominative and express

(a) definite meaning at the beginning of the sentence

(b) indefinite meaning at the end of the sentence.

「単数の、分けられない」主語になる名詞は主格の形になり、
文の始めに置いたときには「定」の意味を、
文の終わりに置いたときには「不定」の意味を表す。

『Finnish: An Essential Grammar』P.120

文の始めなら「定」、文の終わりなら「不定」というのは、本書にのっている次の例文を見るとわかりやすいと思います。

Auto on kadulla.(The car is in the street.)
Kadulla on auto.(There is a car in the street.)
*auto(車)、katu(通り)

フィンランド語の文を見る限り、語順が倒置しただけにしか見えませんが、

上の文は「(話題になっているその)車は通りにある」、

下の文は「通りを見たら(見知らぬ一台の)車がある」、

という感覚なのですね。

しかしこれはあくまで車が一台のときの話。車が複数台のときには、また別のルールが必要になるのだとか。

ずいぶん長くなってしまったので、続きは明日のエントリーにて。
 

Finnish: An Essential Grammar (Routledge Essential Grammars)
Fred Karlsson
Routledge
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