『外国語上達法』読書ノート⑨ − 発音
『外国語上達法』読書ノートの第九回目です。
この連載では、岩波新書より出ている千野栄一先生の『外国語上達法』を読み、感じたこと、考えたことを一章ごとにまとめていきます。
目次はこちら。
1 | はじめに |
2 | 目的と目標 |
3 | 必要なもの |
4 | 語彙 |
5 | 文法 |
6 | 学習書 |
7 | 教師 |
8 | 辞書 |
9 | 発音(←本稿) |
10 | 会話 |
11 | レアリア |
12 | まとめ |
発音 − こればかりは始めが肝心
耳のよい人 vs 普通の人
語学学校に行くと、必ず一人や二人、いわゆる「耳のよい」人に出会うことがあります。
他の生徒がみな訛りのある英語を話しているのに、一人だけネイティブのようなリズムとイントネーションを身に付けている人に会ったことはありませんか。
彼らの語彙や文法のレベルは、他の生徒と案外変わらなかったりします。しかしこと発音となると、一人だけ違う世界に属しているのです。
文法の習得や語彙の習得と比べて発音の練習に人気がないのには、いくつかの理由がある。その一つは、神様の不公平である。
(中略)
何の努力もなしにあっという間に外国人と見分けられないくらい上手に発音のできる人もいれば、いつまでたってもたどたどしい人もいる。そして、一つの外国語の発音のいい人は次の外国語の発音までいいのであるから、始末が悪い。
P.148
こうして見ると、発音の善し悪しには「継続」や「努力」では追いつけない才能というものがあるのかもしれません。
私自身は、この種の才能?は全くない人間ですので、現実的なところで、
- 相手にきちんとメッセージが伝わるレベル
- 長時間会話を続けていても、相手が不愉快にならないレベル
以上の二つを目標として設定しています。レベル1は最低限の必達目標。レベル2は努力目標といったところでしょうか。
[l]と[r]の区別というハードル
私自身は長い間英語を勉強してきて、例えば[f/v]や[th]の音は意識しなくても自然に出せるようになりました。
しかし[l]と[r]の区別は未だに高いハードルです。
語頭に[l/r]が来るときはまだよいものの、語中に[l/r]が混在する thrilling などの単語はゆっくり発音することすら大変です。
また[l/r]の聞き分けに関しては、こんな iPhone アプリが出ています。
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このアプリは、ネイティブスピーカーの発音を聞いて[l]と[r]を聞き分けるというもの。
例えば「ライト」と言われたら、light と right のどちらが発音されたのかを選択します。
これがなかなか難しく、場合によっては正答率が5割くらいになります。二択問題で5割ということは、当てずっぽうで答えているのと同じですね!
普通の人が発音を良くするには?
筆者は、よい発音を身に付けるには初めが肝心と述べています。ひとたび間違った発音を身に付けてしまうと、後からそれを端正するのは非常に難しいとのこと。
だとすると大人になってから、発音を良くすることは不可能なのでしょうか?
筆者は音声学の知識が発音を良くするのに役に立つと述べています。例えば、本書にはこんな例がのっていました。
日本語のザで示される子音は、語頭では[dz]であるのに、母音間では[z]である。これは、「カザリ」、「アザミ」……といったとき、舌の先がどことも接触しないのに、「ザリガニ」、「ザブトン」といったときには舌の先が上の歯ぐきの裏のでっぱっているところにあたることで、違いが確認される。すなわち、日本人は[z]の音も、[dz]の音も持っているのに、それぞれ違った環境で使い分けているのである。
P.155
このような知識があれば、cars[ká:z]と cards[ká:dz]の発音の違いなども理解しやすいのではないでしょうか。
こんな風に知識から入るのも、普通の人のささやかな抵抗と言えるでしょう。
本章のまとめ
発音に関してはもともと「耳のよい」人というのが確かに存在します。
そうではない普通の人は、まずは相手に理解してもらうといった現実的な目標を立てつつ、音声学の知識で発音に関する理解を深めていきましょう。