りんごが一つしかない
「りんごがある」と言えば、りんごは「ある」。
「りんごがない」と言えば、りんごは「ない」。
しかし「りんごが一つしかない」と言っても、りんごは「ある」。
これは日本語の不思議な表現の一つではないでしょうか。
実際「りんごが一つしかない」を英訳しようとすれば、”There is only one apple.” のようにどうしても肯定文になってしまいます。
もちろん「一つしかない」と言うときに話し手の頭の中では、一つあるりんごよりも、りんごが少ないということが強く意識されているはず。そういう意味では「ある」よりも「ない」を使う方が感覚的には妥当なのかもしれません。
この「しか」を辞書で引いてみると次のように出ていました。
しか(副助)
〔否定表現と呼応して〕話し手にとって狭いと意識される範囲(少ないと感じられる数量)に限定されることを表わす。
「きょうの会には一人しか来なかった/これは僕しか知らない話だ/この切符では新宿までしか行かれない/いやならやめるしかない/この花は高山にしか咲かない/私のしかない」
「新明解国語辞典 第七版」
上記の用例を見ると「しか」の後には「ない」に限らず、様々な否定形が来るということがわかります。
ただいずれの例も、その意味する内容は肯定的に表すことができます。
きょうの会には一人しか来なかった | → | 一人は来た |
これは僕しか知らない話だ | → | 僕は知っている |
この切符では新宿までしか行かれない | → | 新宿へは行ける |
いやならやめるしかない | → | やめることはできる |
この花は高山にしか咲かない | → | 高山には咲く |
私のしかない | → | 私のはある |
否定形なのに否定ではない。日本語を外国語として学んでいる人はいったいどのようにこの表現を理解するのでしょう?
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