国語辞書の最後に出てくる言葉は何か?

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しりとりのよくあるルールでは、最後に「ん」の付く言葉を言った方が負けになります。

これはもちろん、日本語に「ん」で始まる言葉が少ないため。

そもそも日本語に「ん」で始まる言葉なんてあるの?と思った人もいるかもしれません。

私自身は「ん」で始まる言葉と聞いたときに、真っ先に思い出すのがこちら。

ンジャメナ【N’djamena】

→ウンジャメナ

「広辞苑 第五版」

ウンジャメナ【N’djamena】

アフリカ中部、チャド共和国の首都。同国南西端にある。人口69万(1992)。ンジャメナ。

「広辞苑 第五版」

「ウンジャメナ」に飛ばされてはいるものの、「ンジャメナ」も広辞苑の見出し語の一つ。

アフリカにはこのように「ン(N)」で始まる地名や単語が数多くあります。

その中でも一国の首都であるンジャメナは、アフリカ代表として広辞苑に登場しているのかもしれません。

なお手元の広辞苑(第五版)において、「ん」で始まる見出し語は次の八つ。

  • ん(仮名)
  • ん(助動詞)
  • ん(助詞)
  • ん(感動詞)
  • ンジャメナ【N’djamena】
  • んす
  • んず
  • んとす

広辞苑最後の見出し語である「んとす」の記述はかなりそっけない感じ。

んとす

→むとす。「終りなー」

「広辞苑 第五版」

むとす

(推量の助動詞「む」に格助詞「と」とサ変動詞「す」の付いたもの。「んとす」とも)まさに…しようとする。…するつもりだ。…

「広辞苑 第五版」

国語辞書の最後の言葉については、辞書の編纂にまつわるドラマを描いた『辞書になった男 ケンボー先生と山田先生』という本に面白いエピソードが出ています。

この本の主人公の一人であり、『三省堂国語辞典』の編集主幹であった見坊豪紀(けんぼう・ひでとし)は国語辞書の最後に出てくる言葉は何であるべきか考えていました。

ところで、辞書のおしまいの項目は何でしょうか。

まず理論の面から行きましょう。これはかんたんです。「ん」を二つ重ねて「んん」とすればいいのです。これで、もうそれ以上先へは進めません。だから、文字どおりこれはおしまいの項目です。なんでしたらもう一つ〝ん〟を付けて、「んんん」とすれば絶対でしょう。問題はじっさいにそんなことばがあるか、ということです。

(見坊豪紀著『ことば さまざまな出会い』)

佐々木健一著『辞書になった男 ケンボー先生と山田先生』より

見坊は実際に「んんん」の用例を10年以上かけて収集し、「んんん」は無事『三省堂国語辞典』の見出し語に採用されたとのこと。

しかしながら現在最新の『三省堂国語辞典 第七版』をめくっても、この「んんん」という見出し語を見つけることはできません。

そのため『辞書になった男』を読んだ後で『三省堂国語辞典』に「んんん」を探しに来た私のような人は一瞬「あれっ?』と思ってしまうのですが、現行の第七版では「んんん」の後継としてこちらの見出し語が採用されています。

んーん(感)

〔話〕

  1. ひどくことばにつまったときや、感心したときなどの声。うーん。
  2. 〔女/児〕〔二番目の音を下げ、または、上げて〕打ち消しの気持ちをあらわす。ううん。

「三省堂国語辞典 第七版」

「んんん」→「んーん」の変更については、『三省堂国語辞典』の現在の編集委員である飯間浩明さんの著書『辞書を編む』に次のような言及がありました。

ちなみに、「んんん」「あああ」は、今回の改訂で、見出しでも分かりやすく「んーん」「あーあ」と書くことにしました。

飯間浩明著「辞書を編む」

六版から七版への改訂の際に「んんん」の表記を「んーん」に変更したということなんですね。

言われてみれば、たしかに実際の発音に近いのは「んーん」なのかもしれません。

よって「国語辞書の最後に出てくる言葉は何か?」という問いに対する現時点での答えは「んーん」ということになるのでしょう。

日本語の未来において、見坊豪紀が「絶対」とまで言っている、この「んーん(んんん)」を凌ぐ言葉に出会うことはあるのでしょうか?

 
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