フィンランド語学習記 vol.227 − 冠詞を恋しく思うとき
フィンランド語を学ぶ人にとって魅力的な点の一つは、フィンランド語には冠詞がないということ。
そのこと自体は間違いないのですが、最近ふと冠詞が恋しいと思うときがあるのです。
例えば、次のような文に出会ったとき。
Tyttö on rannalla.(女の子は海辺にいます。)
*tyttö(女の子)、ranta(海辺)
*tyttö(女の子)、ranta(海辺)
このような文を見たとき、何だか無防備というか収まりの悪さのようなものを感じませんか?
この女の子って the girl なの?それとも a girl なの?というような。
日本語には冠詞などないのに、この感覚はおかしな話。
英語の感覚に引っ張られているのだと思います。
結論を先に述べてしまえば、さきほどの文の女の子は the girl と解釈するのが妥当なよう。
次の文を比べてみると、わかりやすくなるかもしれません。
Tyttö on rannalla.(The girl is at the beach.)
Rannalla on tyttö.(There is a girl at the beach.)
*tyttö(女の子)、ranta(海辺)
Rannalla on tyttö.(There is a girl at the beach.)
*tyttö(女の子)、ranta(海辺)
あらゆる言語において、文というのは既知の情報(旧情報)を先に伝え、それから未知の情報(新情報)を伝えるというのがスタンダード。
旧情報 | 新情報 | ||
---|---|---|---|
1 | Tyttö | → | on rannalla. |
2 | Rannalla | → | on tyttö. |
1の文には、
(さきほど話題になっていた、その)女の子は海辺にいるよ、
2の文には、
(海辺を見てごらん)、女の子がいるよ、
というようなニュアンスがあります。
2の文の rannalla は、旧情報というより、tyttö を会話に導入するためのクッションと考えた方がわかりやすいかもしれません。
(話し手と聞き手の間に合意がないのに)文頭でいきなり tyttö と言ってしまうと、「えっ、どの tyttö のこと?」となってしまうんですね。
フィンランド語は英語のように「語順」の言語でないとはいえ、このあたりのデリケートな違いには敏感になっておいた方がよさそうです。