インクとケーキの違いとは?

先日このブログの文章を書いているとき、コンテクストという単語を使おうとして、あれ「コンテキスト」だったかな?それとも「コンテクスト」だったかな?と表記に迷ったことがありました。

些末なことではありますが、どうもすっきりしません。そのときは、とりあえず「コンテクスト」としておきました。

その後『たのしい日本語学入門』という本をパラパラと読んでいたら、偶然この「キ・ク」のテーマが出ており、なるほど!と思ったので紹介してみたいと思います。

漢語の発音が音読みでも中国音からずれ、日本語にあてた訓読みまで誕生したように、外来語も日本語に合わせたさまざまな変形が起こり、多かれ少なかれ原語から離れていく。

(中略)

母音の補い方が時代によって違う場合もある。inkは古くは「インキ」と書いていたのを、それではあまりに陰気なせいでもあるまいが、今は「インク」と書く。一般に「キ」が「ク」に変わる傾向があるが、「キリスト・ケーキ」はキのままだ。「テキスト・テクスト」のようにほぼ同じ意味で共存している例もある。

P.156

英語の発音[k]をカナ書きにする際、一昔前は「キ」を当てることが多かったものの、今は「ク」を当てることが多くなったということなのですね。これは納得。

ただし「インキ」は古めかしく感じますが、「ケーキ」や「ステーキ」は古く感じませんし、「ケーク」や「ステーク」と言うこともありません。この違いはなぜ生まれるのでしょう?

また「テキスト・テクスト」はたしかに共存していますが、なんとなくニュアンスが異なるような気がします。

テキストというとまずは教科書(textbook)や文字データを連想しますが、テクストというとテクスト論など文芸批評のイメージが強くなるのは自分だけでしょうか。

そういう意味では共存しつつ、異なる意味が生まれつつあるという珍しい例なのかもしれません。

 

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