「パリ、テキサス」あるいはミネソタのフィンランド

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『パリ、テキサス』は、1984年公開、ヴィム・ヴェンダース監督のアメリカを舞台としたロードムービーです。

タイトルのとおり、このパリというのはフランスの首都ではなく、テキサス州にあるパリのことを指しています。

この映画が好きだった私は、学生時代にアメリカを横断旅行した際、そのテキサス州パリを訪ねてみることにしました。車で隣のアーカンソーからテキサスに入り、一路パリへと向かいます。

もちろんそんなに派手な街があると思っていた訳ではないものの、そこは予想以上に静かな田舎町でした。

訪ねたのが冬の2月ということもあったのですが、往来にさっぱり人の姿が見えません。言葉は悪いですが、なんだかゴーストタウンのような雰囲気。

ひととおりメインストリートを歩いた後は、すぐにダラスへ向かった記憶があります。

考えてみると「パリ、テキサス」には、テキサス州パリの風景は一度も出てくることがなく、ある種の象徴としてその名前が使われているに過ぎないのでした。

 

ところでアメリカには、このパリに限らず、ヨーロッパの都市名をそのまま使った地名がたくさんあります。

首都に限ってみても、ロンドン、ダブリン、ベルリン、マドリード、ローマ、リスボン、アムステルダム、ベルン、ウィーン、プラハ、アテネ、ベオグラード、モスクワなど。

これだけでも、ずいぶん壮観ではないでしょうか。

沼野充義さんのエッセイ集「屋根の上のバイリンガル」には、筆者がインディアナ州のワルシャワやニューヨーク州の山奥のペテルブルクを訪ねる話が出てきます。

どちらもとりたててポーランドやロシアの雰囲気を連想させることもない、ありふれた田舎町だったようです。

またアメリカの地名がかなりデタラメなことを示すエピソードとして、下記のような一節も出てきます。

実際、アメリカの地名の決め方には相当支離滅裂なところがあり、『言葉の世界』World of Wordsという言語をめぐるたいへんすぐれたエッセイ集の著者ゲーリー・ジェニングスによれば、メイン州のある地点を起点にとると、そこから車で一時間以内の所に、アテネ、ベオグラード、ブレーメン、中国(チャイナ)、デンマーク、ドレスデン、フランクフルト、リスボン、マドリッド、メキシコ、ナポリ、ノルウェー、オックスフォード、パレルモ、パリ、ペルー、ポーランド、ウィーンといった名前を持つ町がすべてあるという。

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さてここまでくると、最近フィンランドの話題が多いこのブログとしては、ヘルシンキはないのか?ということが気になります。というのも他の北欧の首都、ストックホルム、コペンハーゲン、オスロはそれぞれアメリカに存在するようなのです。

調べたところ、ヘルシンキはなかったのですが、ずばりフィンランドという町がミネソタ州にありました!

wikipediaによると、1890年代後半から1950年代前半にかけて、フィンランド系移民の移住先として人気があったとの記述もあり。

ミネソタに行く機会があったら、ぜひ訪ねてみたいものです。

 

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