奇しくも

三省堂国語辞典の素晴らしい点の一つは時に「読み間違い」の見出し語ものせているところ。

例えばこんな文章を読んだとします。

彼女が亡くなったのは奇しくも67歳の誕生日であった。

そして「奇しくも」ってどういう意味だろう?と思って国語辞書を引いてみると、

きしくも[奇しくも](副)

「くしくも」のあやまり。

「三省堂国語辞典 第七版」

おっと、そういうことか!と思い、こちらを引き直します。

くしくも[(▽奇しくも)](副)

ふしぎにも。

「二人はー同じ日に生まれた」

「三省堂国語辞典 第七版」

この場合にもし「きしくも」という見出し語がなかったとしたら、せっかく辞書を手に取っても「きしくも」を調べた時点で、この辞書には「奇しくも」という言葉は出ていないと早合点して、調べるのをやめてしまうケースもあるかもしれません。

そういう意味では「きしくも」という読み間違いの見出し語をのせておくことには実用的な意味があると思います。

それにしてもなぜ「奇しくも」は「きしくも」ではないのでしょう?

くしくも 【《奇しくも】

(副)

〔「奇しく」は、不思議だ、の意の文語形容詞「奇し」の連用形〕思いもかけずそうなったのは、超自然の力が働いているとしか思われないという気持を表わす。

「新明解国語辞典 第七版」

新明解によると「奇しくも」は文語の形容詞「奇し(くし)」に由来しているとのこと。

ただ現代日本語において「奇」の字を「く」と読ませる単語は他にないので、現代の日本人にとってややトリッキーな読みになっていることは否めないでしょう。

大臣が国会で「きしくも」なんて原稿を読んだら一斉に叩かれそうですが、うっかりそう読んでしまうこともありそうだなと思うのです。

 
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