南極ではたらく:かあちゃん、調理隊員になる
書店で見かけると必ず手に取ってしまうのが書名に「北極、南極」の文字が入った本。
近所の書店で見かけたこの本も手にとってめくっているうちに、じっくり読みたくなって購入しました。
本書は第57次南極地域観測隊で調理隊員を務めた渡貫淳子さんによる南極滞在1年4か月の記録。
著者の仕事はパートナーの調理隊員と二人で隊員30人分の食事をつくること。越冬隊の食料は冬の間補給ができないため、1年分を一気に運び込まなければなりません。
傷みやすい野菜などは冷凍しても1年間保存できないため、滞在後半は使用できる食材も限定的になる中、日々の献立を工夫して考えていく必要があります。
昭和基地という密閉された空間で30人の隊員が一年を過ごす訳ですから、当然そこには言葉にならない葛藤や苦労もあるのでしょう。
ただ一歩間違えば命の危険がある極地において、隊員たちが助け合いながら仕事を進めていく様子には大人の合宿のような楽しげな雰囲気もあります。
また読み終えた後「なぜこの生活に魅力を感じるのか?」と考えてみたところ、結局は無駄を削ぎ落としたシンプルな生活に憧れているからなのかなと思いました。
現代社会における様々な余暇活動、いわゆる枝葉の部分を削ぎ落としていくと生きる上で最低限欠かせない、いわゆる幹の部分が見えてきます。その中でも「食べる」ことが人間にとって最も本質的な活動の一つであることは間違いありません。
南極観測隊員の食べるごはんを通して、私たちが普段食べているごはんの豊かさや貧しさを考えることができるというのは本書が与えてくれるユニークな経験の一つです。
極地というだけでなんとなく憧れを抱いてしまう自分のような人にとっても、全く憧れを抱かない人にとっても、それぞれの視点で楽しめる素敵なエッセイだと思います。