英語と母国語の不思議な関係 − from yle uutiset
フィンランドのニュース番組 yle uutiset のウェブサイトで、こんな記事を見つけました。
English-language invasion troubles Finnish academia | Yle Uutiset | yle.fi
English-language invasion troubles Finnish academia Today more and more university courses are being …
English-language invasion troubles Finnish academia
(英語の侵略がフィンランドの学界を揺るがす)
Today more and more university courses are being offered in English but not everyone’s happy about the development, which is seen as undermining Finland’s official languages.
(今日、ますます多くの大学課程が英語で行われるようになっているが、誰もがそのなりゆきに満足しているという訳ではない。フィンランドの公用語の地位を弱めると見られているからだ。)
この記事では大学教育などアカデミックな世界における英語偏重を懸念する人たちの意見を主に紹介しつつ、最後に英語推進派の「用務員さんも英語を話すべき!」という対照的な意見を取り上げています。
これはどちらかが正解という風に答えの出せる問題ではないのでしょう。
こういう記事を読むたびに思うのは、日本における日本語の地位というのは揺るぎないものだということ。
TOEICの受験者数が200万人を超えたり、社内の公用語を英語にする企業が現れたりすることはあっても、英語が今の日本語の地位に取って代わるということはまずないでしょうし、そのような心配をする議論も聞いたことがありません。
1億人の母語人口を抱えているということは、良くも悪くも日本語だけで生きていけるということでもあります。
フィンランドのような人口500万人の小国では、国際語としての英語に依拠しつつ、同時にその英語から母国語を守るという矛盾の中を生き延びていかなければならないのでしょう。
ところで、何かにつけて批判される日本人の英語力ですが、もし日本の人口が500万人に減ったとしたら、おそらく今よりも英語力は伸びるのではないでしょうか。
そのような状況下では、日本語で本を出版しても、単純換算で売り上げが20分の1になってしまいます。それならより広範な世界をマーケットにできる英語で情報発信をしようとする人が増加しても不思議ではありません。
すると、情報を受け取る側も、日本語だけでは十分な情報が得られないため、必要に駆られて英語を勉強し始めるという具合。
なお誤解のないように言い添えておきますと、そんなシナリオがよいと思っているのではありません。念のため。
3月 24, 2013 @ 11:08:48
こんにちは,
フィンランドは,長い間実質スウェーデンの植民下にあったので,ロシアの大公国となった1809年の時点でもスウェーデン語が公用語であり,人口の85%が話すフィンランド語はマイナーな言葉として位置づけられていました(フィンランドではロシア語が公用語になったことはない)。スウェーデン語を話す者だけが利益を得て,多くのフィンランド人たちは不利益をこうむっていました。
1820~30年代にフィンランド人の文化とフィンランド語の地位向上を推し進めようという運動が若いフィンランド人(ルーネベリ(J.L.Runeberg),F シュグネウス(F.Cygnaeus),スネルマン(J.V.Snellman),トペリウス(Z. Topelius),レンロート(Elias Lönnrot)等)が土曜会という談話会を興したのを契機として,1831年のフィンランド文学協会(Suomen Kirjallisuuden Seura)の創設や1863年,ロシア皇帝アレクサンデル2世の訪フィンの時,勅命によりフィンランド語をスウェーデン語と並ぶ公用語とさせました。
このような経緯で現在では2ヶ国語がフィンランドの公用語です(これにサーメ語が準公用語としてある)。また,教育言語としてはこの3言語の他にロマニ語,英語,フィンランド語手話,スウェーデン語手話があります。これらの言語は生まれ育って身に付いた「母語」であり,フィンランドでは母国語という表現はありません。
1998年の基礎教育法制定によって初等教育段階からスウェーデン語を学ばなくても良くなりましたが中等段階では必修であり,これがフィンランド人のスウェーデン語(そしてスウェーデン人)嫌いを助長し,今ではスウェーデン語を公用語からはずそうという運動も起きています(Pois ruotsia!)。
外国人留学生の増大と共に大学講義の教育言語として英語が広く使われるようになったことがこの一因だろうと思いますが,表記法や話し方がまちまちだったフィンランド語を200年かけて統一して来たものが,ここ10数年の間に社会一般への英語の普及によってフィンランド語が変わりつつあるのは寂しいことです。
3月 26, 2013 @ 12:50:49
Jussiさん、こんにちは
ご教授ありがとうございます。英語とフィンランド語という関係の他にも、スウェーデン語とフィンランド語という緊張関係もあるんですね。
同じ国で2つの原語(あるいは2つの民族と言うべきか)を共存させようと思ったら、様々な軋轢があるのだろうということは何となく想像できます。
フィンランドとスウェーデンの歴史的経緯を見れば、日本や韓国で、日本語と韓国語の両方を公用語にしますと言っているようなものですから、そこには様々な感情が渦巻いているのでしょうね。