「あい」と「あゐ」の違いとは?

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日本語にはさまざまな同音異義語があります。「愛」と「藍」もその組み合わせの一つ。
あい【愛】
- 親子・兄弟などがいつくしみ合う気持ち。また、生あるものをかわいがり大事にする気持ち。「―を注ぐ」
- 異性をいとしいと思う心。男女間の、相手を慕う情。恋。「―が芽生える」
- ある物事を好み、大切に思う気持ち。「芸術に対する―」
- 個人的な感情を超越した、幸せを願う深く温かい心。「人類への―」
- キリスト教で、神が人類をいつくしみ、幸福を与えること。また、他者を自分と同じようにいつくしむこと。→アガペー
- 仏教で、主として貪愛(とんあい)のこと。自我の欲望に根ざし解脱(げだつ)を妨げるもの。
あい〔あゐ〕【藍】
- タデ科の一年草。高さ50~80センチ。茎は紅紫色で、葉は長楕円形。秋、穂状に赤い小花をつける。葉・茎から藍染めの染料をとり、京都・大坂・阿波が産地として知られた。果実は漢方で解熱・解毒に使う。古く中国から渡来したとされる。たであい。あいたで。《季 花=秋》「この村に減りし土蔵や―の花/秋郷」
- 濃青色の天然染料の一。1や木藍(きあい)などの葉や幹から得られる。インジゴ。
- 藍色(あいいろ)。
『大辞泉』
それぞれの語義はさておき、ここで注目したいのは、藍の方の仮名には「あい」と「あゐ」の二種類が当てられていること。
現在ではもちろん「あい」と表記しますが、昔は「あゐ」と表記していたんですね。
調べてみると、平安時代のころまでは、「い」はア行のイ、「ゐ」はワ行のヰとして区別されていたのだそうです。(ゐのカタカナはヰ)
これはつまり、「い」は[i]、「ゐ」は[wi]と発音されていたということを意味しています。
次のように五十音を並べてみると「ゐ」の位置付けがよくわかるのではないでしょうか。
w | r | y | m | h | n | t | s | k | – | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ん | わ | ら | や | ま | は | な | た | さ | か | あ | a |
ゐ | り | み | ひ | に | ち | し | き | い | i | ||
る | ゆ | む | ふ | ぬ | つ | す | く | う | u | ||
ゑ | れ | め | へ | ね | て | せ | け | え | e | ||
を | ろ | よ | も | ほ | の | と | そ | こ | お | o |
あゐ(藍)のほか、「ゐ」を使う(使った)単語には次のようなものがあります。
- あぢさゐ(紫陽花)
- ゐど(井戸)
- ゐなか(田舎)
- くれなゐ(紅)
これらの単語も昔は「あじさうぃ」「うぃど」「うぃなか」「くれなうぃ」と読んだのでしょうか?
そうだとすると、心なしか外国語のような音にも聞こえます。ウイスキーに「ヰスキー」という字を当てたのは、まさにぴったり。
この時代の会話が録音されていたら、どんなにおもしろいだろうと思いますが、それはかなわない夢ですね。