フィンランド語学習記 vol.270 − 現在完了形
先日のフィンランド語教室では「現在完了形」を扱いました。
英語を学んだことのある人なら、馴染みのある文法項目だと思います。
ただし日本語ネイティブの私たちにとっては、その本質的な概念をつかむのは案外難しいところもあります。
まずはその作り方から見ていきましょう。
現在完了形の作り方
フィンランド語の現在完了形は「olla+過去分詞」で表します。
Minä olen käynyt Suomessa aikaisemmin.(私は以前フィンランドを訪れたことがあります。)
*opiskella(勉強する)、käydä(訪れる)、aikaisemmin(以前)
olla は英語のbe動詞に当たる単語なので、英語なら受動態になる組み合わせですが、フィンランド語では現在完了形になるんですね。
過去分詞の作り方は、以前過去形の否定文を扱った際に習いました。下記の記事に作り方をまとめてあります。
フィンランド語学習記 vol.257 − 過去形の否定文の作り方(1)
フィンランド語学習記 vol.258 − 過去形の否定文の作り方(2)
フィンランド語の過去分詞で一番多いのは語尾が単数なら[-nut/-nyt]、複数なら[-neet]になる形。
→ puhunut / puhuneet
→ syönyt / syöneet
それも含めて動詞のタイプごとの過去分詞の語尾の形を再掲しておきます。
語尾 | 語尾の処理 | 過去分詞 (単数) | 過去分詞 (複数) | |
---|---|---|---|---|
T1 | VA | [A]を外す | -nut/-nyt | -neet |
T2 | dA | [dA]を外す | -nut/-nyt | -neet |
T3 | lA | [lA]を外す | -lut/-lyt | -leet |
nA | [nA]を外す | -nut/-nyt | -neet | |
rA | [rA]を外す | -rut/-ryt | -reet | |
stA | [tA]を外す | -sut/-syt | -seet | |
T4 | AtA | [tA]を外す | -nnut/-nnyt | -nneet |
OtA | [tA]を外す | -nnut/-nnyt | -nneet | |
utA | [tA]を外す | -nnut/-nnyt | -nneet | |
T5 | itA | [tA]を外す | -nnut/-nnyt | -nneet |
T6 | etA | [tA]を外す | -nnut/-nnyt | -nneet |
現在完了形の意味
英語の現在完了形を扱うときには、①完了・結果、②経験、③継続の三つの用法に分けて理解するのが一般的。
それではフィンランド語はどうなっているのでしょう?
まずはいつもお世話になっている『フィンランド語文法ハンドブック』を開いてみました。
現在完了形を日本語話者の観点から見ると、大きく3つに分類することができます。1つは文字通り「完了」を表している場合で「(もう)〜してしまった、〜してしまっている」といった意味になります。
…
現在完了形は「経験」を表すこともできます。「(今までに)〜したことがある」というような場合です。
…
現在完了形の3つめの働きは「継続」です。「(ずっと)〜している」というような意味を表すことになります。
『フィンランド語文法ハンドブック』P.115-116
この解説を見る限り、少なくとも意味の上では、英語の現在完了形と大きな違いはないようです。
ただ私たちは現在完了形を理解するとき、便宜上このように意味を分類して理解しますが、ネイティブスピーカーの頭の中では、いったいどのように処理されているのでしょう?
そんなことが気になったので、英語で書かれたフィンランド語の文法書『Finnish: An Essential Grammar』も調べてみました。現在完了形については次の記述があります。
The perfect tense is used for past actions whose influence is in some way still valid at the moment of utterance: the perfect is the tense of ‘present relevance’.
(現在完了形とは、過去の出来事の影響が何らかの形で発話の瞬間にも及んでいるときに用いられる。つまり完了形というのは「現在関係」時制なのだ。)
『Finnish: An Essential Grammar』P.227
何と現在完了形の意味に関する説明はたったこれだけ。この後には「olla+過去分詞」などの形に関する説明が続きます。
考えてみると、例えば日本語の助動詞「た」には、①過去、②完了、③存続など、さまざまな意味がありますが、日本語ネイティブである私たちはいちいちその違いを意識している訳ではありません。
英語やフィンランド語の現在完了形もおそらくはそれと同じで、ネイティブスピーカーにとっては「過去に何かが起こり、その影響が現在に及んでいる」というくらいの理解なのでしょう。
ノンネイティブである私たちにとっても「過去⇒現在」という完了形の本質を押さえておくことは、決して無駄なことではありません。
まずは幹の部分を押さえ、それから枝葉に降りていくのが文法理解の王道と言えるのではないでしょうか。