Tanacross Learners’ Dictionary − タナクロス語の世界を覗いてみれば

20代のころ、アラスカの文化や言語に興味があって、関連する本を読んだり、アラスカ大学のホームページを読んだりしていた時期がありました。

何となくその頃のことを思い出して、久しぶりに Alaska Native Language Center のホームページを見ていたら、なんとタナクロス語の辞書が iPhone アプリで出ているとのお知らせを発見。

これはおもしろそうだ!と思い、さっそく試してみました。

タナクロス語というのは、おもに北アメリカで話されているアサバスカ諸語(Athabaskan Languages)の中の一言語です。

日本版の Wikipedia には項目がないので、英語版の Wikipedia から引用してみましょう。

Tanacross (also Transitional Tanana) is an endangered Athabaskan language spoken by fewer than 60 persons in eastern Interior Alaska.

話者数60人以下ということですので、かなり差し迫った消滅の危機にある言語と言えるでしょう。

またアサバスカ語というのは、アメリカの著名な人類学者エドワード・サピアが、私信の中で the son-of-a-bitchiest language と呼んだくらい、文法的に複雑きわまりない言語として有名です。

Alaska Native Language Center ホームページの説明によると、この辞書アプリには2,000の英語見出し語と4,500のタナクロス語、そして3,800の音声ファイルが収録されているとのこと。音声が聞けるというのは素晴らしいですね。

それでは、いよいよ辞書の中身を見てみましょう。

この画面から単語を検索します。なおこの辞書は、英語からタナクロス語を調べる、いわゆる「英・タナクロス辞書」となっています。通常の学習者用辞書のように「タナクロス・英辞書」にしてしまうと、使いこなせる人は相当限定されてしまいそうなので、無理もないでしょう。

ここでは人称代名詞の I と you を検索してみました。

I と me は同じ一語(shih)で表すのですね。また語法の説明によれば、文の「主体」は動詞の中で示されるため、人称代名詞の shih は省略されることも多いようです。これはタナクロス語に限らず、アサバスカ諸語に共通の特徴なのだとか。

例えば、アプリに付属している解説によると tâatihdaał という一語で、I’ll go back home. の意味になるのだそうです。その際のタナクロス語の形態素と英単語の対応関係は以下のとおり。

tá- home
na- back
t- future
ih- I
d- back
haa go
ł future

 
それにしても話者数60人以下の言語で、これだけの辞書アプリを出してしまうというのは、すごいことだと思います。

調べた訳ではないので確かなことは言えませんが、もしかすると「辞書アプリを持っている世界最少話者数の言語」である可能性はないでしょうか?

 
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