『外国語上達法』読書ノート⑤ − 文法
『外国語上達法』読書ノートの第五回目です。
この連載では、岩波新書より出ている千野栄一先生の『外国語上達法』を読み、感じたこと、考えたことを一章ごとにまとめていきます。
目次はこちら。
1 | はじめに |
2 | 目的と目標 |
3 | 必要なもの |
4 | 語彙 |
5 | 文法(←本稿) |
6 | 学習書 |
7 | 教師 |
8 | 辞書 |
9 | 発音 |
10 | 会話 |
11 | レアリア |
12 | まとめ |
文法 − “愛される文法”のために
ある程度一つの外国語をきちんと身につけた人であれば、文法の必要性を疑うことはないでしょう。
文法なしに外国語学習を行うというのは、海図もなしに大海原に出航するようなものです。
文法というのは、ある意味、先人が残してくれた効率的な学習のための知恵であり、それを利用しない手はありません。
アンチ文法派の意見もよくよく聞けば、知識のための文法や、過剰な文法学習に反対しているのであって、文法そのものが不要だと言っている訳ではありません。
特に語学の初歩においては、語彙と文法をバランスよく身に付けていくことが大切だと思います。
ただし日本人の場合はやや文法偏重になりがちなので、語彙をきちんと固めること、覚えた文法を使うこと(アウトプット)を意識すると上手くバランスが取れるかもしれません。
文法のたのしみ
語学が好きな人には、文法が好きな人が多いのではないでしょうか。私もその一人です。
その理由を著者はこんな風に説明します。
世界の言語を見渡したとき、それぞれの言語に違いがあるが、文法のあり方はそれぞれがどうしてこんなに違うのかと思うくらい絢爛豪華に異なっている。そこに、文法の面白さの一つの理由がある。
P.70
外国語に接したとき、母語(この本を読んで下さる人の大部分にとっては日本語)と外国語ではどこが違うかに細かく気を配れる人にとっては、文法はとても面白い分野である。文法に書かれたことを鵜のみにし、やみくもに外国語を理解しようとする人にとっては文法は退屈である。
P.75
この件を読んだときは深く納得しました。
外国語を通して、母語を再発見するという経験は、おそらく外国語学習が与えてくれる最良のものの一つです。
私の場合、正直に言って英語を勉強していたときにはこのことをそれほど深く実感していた訳ではありません。
しかしフィンランド語を始めてからは、フィンランド語を通して、日本語と英語を再発見するという経験が多くなりました。
このブログのフィンランド語学習記でも、そういった内容をよく取り上げています。
[参考]フィンランド語学習記 vol.59 − ふたたび属格と日本語の「の」の話 | Fragments
覚えるべき文法のレベルとは
文法の項目を覚えるときも、語彙を覚えるときと同じように、もっとも重要なものから覚えていかなければならない。
P.80
ある言語の文法を完全に網羅することは、語彙を完全に網羅するのと同じくらい、不可能なことだと思います。
まずはその言語を運用するための最低限の文法を学びましょう。
英語の場合なら、中学英語の文法さえ身に付ければ、それなりには使いこなすことができるはずです。
(もちろん知っていることと、使うことができることの間には深い溝があるのですが。)
分厚い文法書は、手元に置いてリファレンスとして使えば十分でしょう。
他の言語なら、薄い入門書(例えば、白水社のニューエクスプレスシリーズのようなもの)を一冊、きちんとこなすところから始めてみてはどうでしょうか。
教室に通うのなら、まずはそこで与えられた教科書を徹底的に固めましょう。
また著者は、文法の基礎的知識を固めることと合わせて、学習の初期に単語の変化表を徹底的に覚えることをすすめています。
フィンランド語のような格変化のある言語を学んでいると、このことの重要性はよくわかります。
単語の原形(辞書形)を覚えていても、文章の中にそのままの形で出てくることが少ないため、基本語彙を覚えることとその格変化を覚えることは表裏一体の関係となっているのですね。
本章のまとめ
文法を学ぶことによって、
- 外国語を効率的に学ぶことができる
- 母語についてよりよく知ることができる
まずは薄めの入門書から初めてみましょう。